中国には「飲水不忘挖井人(水を飲むときには井戸を掘った人を忘れない)」という言葉がある。この言葉は、1972年の日中国交正常化にいたるまでの間、さまざまな紆余曲折のなかで地道な努力を続けてきた当時の自民党左派の古井喜実氏、松村謙三氏らや日中経済交流に先鞭をつけた高碕達之助氏、岡崎嘉平太氏などを称えてたびたび中国側から口にされた言葉だ。そして国交回復当時の中国外相であった姫鵬飛氏がその回顧録のタイトルに選んだ言葉でもある。
国交回復後35年を経た今、これらの人々はいずれも故人となってしまわれた。新たな日中関係のページを開いていくのは戦後世代だ。戦後世代の人々は、彼らなりのやり方でその関係を築いている。日本人が、中国人が、それぞれ異国である中国に住み、日本に住んで、それぞれの国民と身近に交わるなかで、それまでの世代とは異なる「本音の関係」を築きつつある。
その彼ら、彼女らが感じていること、考えていることやその戸惑い、希望などは、日中関係の華々しい歴史のページには記されないかもしれない。それでも、彼ら、彼女らは本人がそれを自覚するしないにかかわらず、確実に井戸を掘り続けている市井の人々だ。
このコーナーでは、日本と中国のそうした人々の声に耳を傾けていきたい。