2004年のアテネ・オリンピックの男子110メートルハードルで金メダルを獲得した劉翔は、その後も多くの国際大会で連続して優勝し、12秒88の世界記録を樹立した。「飛人」と呼ばれる劉翔はいまや、全国津々浦々、知らぬ者はいないスターとなり、都会の街頭広告やテレビ画面でもしょっちゅう彼の明るい笑顔が見られる。
劉翔は歌が好きだ。いつも歩きながら鼻歌を歌っている。こうしているとリラックスできるという。「新しい歌でも2、3回聞けば歌える」そうだ。もっとも好きな曲は『モニカ』(注)。その歌詞が、彼の父母やコーチらに対する感謝の気持ちをぴったりと表現しているからだという。
2004年、劉翔は初めてテレビで、その喉を披露した。彼の魅惑的な声と熟達した歌い方は、観衆に新たな驚きと喜びを与えた。多くのレコード会社が彼のCDを出したいと言ってきたが、彼はみな婉曲に断ってしまった。
トラックでは飛ぶように走る劉翔だが、日常は、ゆっくりしたリズムの生活が好きだ。食事をするのもゆっくり、風呂もゆっくりだ。朝寝坊するのも好き。「スタートのピストルが鳴った時だけ分秒を争うんだ」と劉翔は笑いながら言う。
オリンピックを間近に控え、重点選手である劉翔に、陸上競技チームはマッサージ室を一人で使えるようにはからった。しかし彼はこの特権を受けたことは一度もない。「みんな苦労して練習している。私のために他の人が無視されてはならない。もし自己を大きく表現したいなら、私は競技場でそうしたい」と劉翔は言うのだ。
世界の男子110メートルハードルで中国とアジアの誇りとなった劉翔は、現在、自分がすでにピークに達したと認識している。もし可能なら、もう一回、世界新記録をつくりたい、と考えている。
(注)吉川晃司の『モニカ』をレスリー・チャンがカバーし、中国全土で大ヒットした。