日本経済が長期的に低迷している理由や背景については、長いあいだ次のような統一見解があった。まず発端は、1980年代後半の極端な円高である。続いて90年代に頻繁に行われたケインズ式の大規模経済刺激策が目覚ましい効果を上げられなくなった。そして2000年代は構造改革後の金融通貨政策が不適切で、消極的なデフレ対策しかとられなかった--というものである。2000年以後は特にデフレが日本経済の代名詞のように語られており、デフレは不景気と同義、あるいはデフレこそが経済不振の原因という考え方が日本国内では一般的である。
しかし、日本経済の不振は実際には世間で言われるほど深刻ではない。過去20年でいわゆるデフレが観察されたのは数えるほどしかないし、時間的にも短いものだった。この20年で日本の物価に起こっていたのは、経済学で言うところのディスインフレーションであり、デフレーションではない。つまり正確に言うならば、日本経済が世界での地位を下げたのは、世界規模の緩やかなインフレ傾向の恩恵にあずかれず、他の先進国のようにそれなりの経済成長を果たせなかったからなのである。日本の中央銀行による緩和政策は米国の連邦準備制度に比べ、遙かに大々的で持続的なものだった。今の欧州中央銀行と比してもそうである。これを踏まえると、そもそも実在しないデフレに依然として原因を求めるのは、明らかに誤認だと言える。
これについては長期的視点から日本経済の過去を観察すれば、全く異なる構図が見えてくる。一国の経済規模の統計指標としてのGDP規模で日本が中国に抜かれたのはたった一年前の出来事だが、年平均の国民収入を見ても結果はほぼ同じことになる。バブル経済期(1986-1990年)に日本の年平均国民収入は約300兆円であったが、それがいわゆる「失われた十年」(1991-2000年)には370兆円に膨らんだ。デフレが言われ続けた2000年に入ってからの10年(2001-2009年)も362兆円、つまり約28兆元を維持していた。中国の2009年の名目GDPはおよそ34兆元だった。
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