梅新育(商務部研究院研究員)
中国投資環境は本当に悪化したのか?西側諸国の報道や研究レポートだけを見るのであれば、中国投資環境は大きく悪化したように見える。しかし、注意深く分析しさえすれば、こうした悪化論がどれも成り立たないことが容易に分かるだろう。中国の国内外投資誘致における一部の既存優位性はある程度弱まったが、新たな優位性が強まりつつある。
コスト優位性を例にとると、以前のような廉価な労働力という優位性は確かにもう戻ってはこない。これは中国の経済社会発展の必然的結果である。しかしこの既存優位性がなくなると同時に、新たな優位性が生まれつつある。
中国の国民所得の大幅な増加にしたがって、中国国内の市場規模はかつてないほど拡大している。中国国内市場に目を向ける投資家にとって、チャンスもかつてないほど大きい。
中国の経済規模は世界第2位に躍進した。国際通貨基金(IMF)の購買力平価法で計算すると、中国の昨年の経済規模はすでに米国を上回った。他の条件が変わらない状況下で、経済規模が大きいことは通常マクロ経済安定性がより高いことを意味し、また政府がマクロ調整や経済安定策を実施できる余地が大きいことを意味する。私たちは1960年代から、同じように公開市場操作で国際資本流動に対応した際に、西欧の小国の中央銀行がわずか数時間で使用可能な証券ツールをすべて使い果たし相場師に屈服せざるを得なかったのに対して、大国の中央銀行は落ち着き払いまったく慌てなかった様子を一度ならず目にしてきた。
ここ数日の人民元対ドル相場の切り下げを持ち出してまことしやかに語る必要はない。人民元の対ユーロ、円の為替相場はずっと高値が続いているからだ。人民元為替レート変動の根本的な原因は人民元の疲弊ではなく、ドルが強すぎたことである。その他新興市場通貨の安定性に至っては、人民元と同日の談ではない。ここ1カ月ほど、広く取引されている新興市場通貨24種類のうち、20種類が程度は異なるものの値下がりしているではないか。ロシア・ルーブル、チリ・ペソ、ブラジル・レアルの5月以来の値下がり幅はいずれも10%を超えており、インド・ルピーは17年来の最安値にまで下がっている。
総合的な国力の増強にしたがって、中国の国際貿易ルールに対する影響力が高まってきた。もし、以前の中国は外部の貿易保護主義行為に対して常に受動的に受け入れるしかなかったと言うのであれば、現在の中国は貿易相手に対し公正に中国製品に向き合うよう説得する力を持つようになった。それに応じて、中国の輸出志向型製造業が直面する貿易保護主義リスクは減る傾向にある。
それだけではなく、外部が誇張するその他の国の「優位性」は単に一時的なものか、または他の要因によりすっかり相殺されてしまう。エネルギーコストを例にとろう。ボストンコンサルティンググループ(BCG)が発表したレポートによれば、米国の製造コストを100とすると、中国大陸の製造コストはすでに96まで上がっており、その重要な原因はエネルギーコスト上昇であるという。対米投資している中国の製造企業にとって、米国の廉価なエネルギーは大きな魅力だ。問題は米国の廉価なエネルギー優位性が「シェールガス革命」と原油天然ガス輸出規制によるものだということだ。第一次産品市場が上がり相場にある間は、米国のエネルギー価格は中国を含む東アジア地域よりもかなり低かった。しかし、昨年6月以来、国際市場の石油価格が暴落、また第一次産品市場が2012年から10~15年続く下がり相場に入っていることもあって、米国国内のエネルギーコスト優位性はすでに大きく縮小している。米国政府の原油天然ガス輸出規制緩和幅はさらに縮小され、この優位性はなくなるだろう。さらには、オバマ大統領が力を入れる「クリーンエネルギー計画」が米国国内のエネルギーコストを東アジアよりも高いものにしてしまう可能性もある。こうした大きな趨勢の下で、中国のエネルギーコスト面での劣位性が長期的に続くと誇張し、期待するのは、現実離れしている。
中国製品に追い付き追い超すことを目指す発展途上国に至っては、労働力の比較優位性は往々にして制度的な欠陥によって大きく相殺されてしまう。インドの労働力コストは中国よりかなり安いが、両国の労働力の質、生産性、品質などの面の違いを考慮しなくても、その高い土地収用コストはかなりの程度労働力コストの優位性を相殺してしまう。
さらに中国のインフラ、裾野産業、公共サービス、人材の質などの面の優位性と、中国政府・国民の決意と努力を考慮すれば、長期的発展チャンスを求める投資家が風潮に乗って中国投資環境が悪化したと判断するものだろうか?
『北京週報日本語版』2015年8月24日 |