本誌評論員 蘭辛珍
中国が中所得国のわなに陥るかどうかについては以前から多くの言論があり、国内外の経済学者は多くの理由を列挙して自分の見解を示すことができる。4月24日、楼継偉中国財政部長は清華大学で開催されたフォーラムに出席した際、中国は急速な高齢化によって、今後5年から10年の間に50%以上の可能性で「中所得国のわな」に陥るとの見解を示した。
現任の中国政府高官が、中国は中所得国のわなに陥る確率が高いとはっきり述べ、同時に自分の考える理由を話したのはこれが初めてだ。財政部長という身分であったため、楼部長の発言はたちまち反響を呼んだ。
中国経済の成長率低下に対する警戒心からか、または全面的改革の緊迫性に対する人々の認識を呼び覚まそうとしたからであれば、楼部長の発言は過度に非難すべきほどでもない。しかし、中国経済の実際の発展状況からこのような結論を得たのであれば、議論の余地がある。
まず、中所得国のわなとは何かを見てみよう。2006年、世界銀行の「東アジア経済発展報告」が最初に中所得国のわなという概念を提起した。それは1人当たり所得が世界の中程度の所得レベルに達した経済体が、発展戦略や発展モデルの転換がスムーズにいかずに、新しい成長原動力、とくに内在的な原動力の不足に陥り、最終的に経済が停滞する状況を意味する。世界銀行の2011年の基準に基づくと、 1人当たりGDP3856ドル以上が中所得国、1万1905ドル以上が高所得国とされる。
既存データが明示しているように、一国の1人当たりGDPが7000ドルに達すると、1人当たりGDPの成長率が明らかに下がり、中所得国のわなに陥る危機に直面することになる。しかし、経済成長率の停滞或いは低下は中所得国のわなとイコールではなく、経済成長率が低下または停滞すると同時に、貧富の格差、社会公共サービスの不足、就職難、社会の不安定、金融体系のもろさなど、いくつかの特徴に合致していることが条件である。
世界を見ると、中南米地域と東南アジアの一部の国は「中所得国のわな」に陥っている国の典型的な例だ。例えば、アルゼンチンは1964年に1人当たりGDPが1000ドル以上となり、1990年代末までに1人当たりGDPが8000ドル以上に達した後、経済成長率が停滞かつ低下し、2002年には2000ドル余りに下がった。2008年には8000ドル余りに戻ったが、今なおさらなる大きな飛躍的成長を遂げていない。
日本と韓国は世界に公認された「中所得国のわな」を切り抜けた成功例である。日本の1人当たりGDPは1972年に3000ドル近くになり、1984年には 1万ドルを突破した。韓国は1987年に3000ドルを上回り、1995年には 1万1469ドルに達した。中所得国から高所得国の仲間入りをするまで、日本が約12年、韓国が8年かかった。
次に中国を見てみよう。2014年、中国の1人当たりGDPは7000ドル余りで、中所得国のレベルにある。しかも2012年第4四半期から、中国の経済成長率はずっと低下段階に留まっており、12%から7%前後まで下がった。
しかし、現在、中国では雇用が十分で、社会が安定化し、公共サービスが大いに改善され、 1人当たり所得は年を追って増えつつあり、人々の生活水準は絶えず高まっている。これは、目下、中国が中所得国のわなに陥っていないことを示している。
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