西側諸国の衰退
中露の天然ガス契約の締結は、ロシアが受けている米国と西側諸国の経済制裁による圧力を効果的に緩和し、ロシアが国の核心的利益を外部の試練から守る自信を高めるだろう。2014年2月にウクライナで起きた「親欧派革命」の影響を受けて、西方面で米国、欧州との関係が全面的に悪化し、欧州方面は地政学的に冷戦後最も緊張した時期を迎えた。米国はロシアが出兵して一気にクリミア半島を併合する「窮地の反撃」に出るとはまったく予期していなかったが、少しも弱みを見せようとせず、西側諸国とともに広い分野で段階的に対ロシア制裁措置を取ったと同時に、長期計画を立ててウクライナや欧州諸国のロシア産天然ガスに対する過度の依存を減らすことに着手している。
ロシア制裁措置の1つとして、西側7カ国首脳はロシアのソチで行われる予定だった2014年G8サミットへの参加を取り消し、続いてロシアのG8サミット構成国の資格を一時停止すると発表した。これによって、G8サミットの体制は2002年の規模に戻った。6月初め、7カ国(G7)首脳はベルギーの首都ブリュッセルのEU本部に場所を移してG7サミットを開催した。プーチン大統領はG7サミットに招待されなかったことを全く意に介さない態度を示したと同時に、西側からの圧力によって、ロシアはなおさら東へと向かわざるを得なくなり、対中関係は「ロシアの対外政策の優先事項」であることを公に認めた。
過去3年間、オバマ政権が実施した「アジア回帰」戦略調整を非常に不快に感じていた中国戦略学術界は、もともと欧州情勢の緊張化によって、米国のアジア太平洋地域に対する注目が弱まり、さまざまな相違や摩擦で重任を担えなくなっていた中米関係に一息付く機会を提供することを期待していた。しかし、オバマ政権は戦略の東へのシフトのテンポを緩めるいかなる兆しも示さず、かえって強い調子で米国の「アジア回帰」継続を宣言し、同時に中国を日本、フィリピン、ベトナムなど隣国との領土・領海(洋)紛争で激化する対立に巻き込んでいる。さらには、オバマ政権は中国を叩く声を高め、中国が東アジアで「実力誇示」、「領土拡張」、「現状変更」をしていると批判し、米軍は「準備を整え」、見て見ぬふりはしないと公言した。
中国戦略学術界は、オバマ政権が米国とロシア、中国との関係を同時に緊張させるやり方を「二つの拳を同時に出す」と形容し、これは国際的枠組みの急速な変化を前に米国が示した本能的な反応であり、表面上の強硬な姿勢で内心の緊張感を隠しているのだ、としている。オバマ政権は「米国の世界的リーダーシップ」の維持を対外戦略の主軸とし、次第に中国をロシアに代わる米国の最も主要な現実的競争相手と見なすようになったが、1つの大国の台頭に対処すると同時にもう1つの強国の復活に直面せざるを得なくなった。
冷戦終結後20年余りの間、勝者を気取る米国は欧州の「安全保障真空地帯」の補充を急ぎ、絶えずロシアの地政学的戦略空間を押しやってきたが、ついにモスクワの我慢の限界を超え、強い反発に遭った。2008年の南オセチア・アブハジア紛争、2011年のシリア危機、2014年のクリミア半島事件をきっかけに、クレムリンは思い切った行動を取り、NATOの東部拡大をドニエプル川までで食い止めている。プーチン指導下のロシアはエリツィン政権時代の西側との抱擁という迷夢から徹底的に覚めた。ロシアは絶対に西側の随従者や仲間になることを望まず、西側と対等に付き合う中で改めて本当の意味での大国として認められ、国際的に旧ソ連の時のような地位と影響力を回復することを望んでいる。
ホワイトハウスの主はどうしても「別世界で暮らす謎めいた」プーチン氏の心の世界を見破ることができないため、米国が対ロシア戦略を策定する時にしばしば判断ミスが起こる。米国は西側諸国とともに一時的にロシアをG8から追い出し、余地を残した政治上のシグナルを出した。それは、モスクワに対して適当なところでやめろと警告し、ウクライナへの浸透と分割を中止し、西側との交渉を通じてNATOとロシアの新しい国境を画定しようというものだった。しかし、これはロシアに対する実質的威嚇にはなり得ず、かえって世界の枠組みにおける西側の全面的な衰退を実証するものとなった。複数の新興大国の台頭に従って、西側7カ国の世界GDP総額に占める割合は最高の70%から現下の50%以下に減り、その世界を支配し天下に号令する日々は永遠に過ぎ去ってしまった。ロシアは新興国と西側諸国の間で独特な懸け橋の役割を果たせるG8という場を失いはしたが、その周囲には中国、BRICS、G20、ユーラシア連合、独立国家共同体(CIS)、上海協力機構(SCO)があるため、孤独に陥ることはない。
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