演舞と歌曲から東アジアの漁民文化を探る

YOSAKOIソーラン祭りの起源である高知「よさこい」の重要な道具である「鳴子」は元々作物を狙う鳥を追い払う農機具で、踊りも主に盆踊りスタイルである。しかし北海道で生まれたYOSAKOIソーラン祭りには、農耕文化ではなく漁民文化の性格が濃いと言える。

YOSAKOIソーラン祭りで使われる「ソーラン節」は、ニシン漁の歌と、漁師の安全や大漁を願う演舞として有名で、北海道を代表する民謡でもある。その発祥地は、江戸時代よりニシン漁で栄えた余市町だ。ソーラン節は、網のニシンを巨大なタモ網で汲み出す時掛ける「ソーラン」の囃子言葉に因んで「ソーラン節」と呼ばれるようになった。特に踊りには、足腰を深く曲げた激しい踊り方や、網を上げるように力強く腕を伸ばすような姿勢があり、とても典型的な漁の動作であった。

唄や踊りばかりではなく、チームの名前から演舞のモチーフまで、色々なところから漁民文化の深い影響が見て取れる。例えば、１９９２年に札幌市豊平区平岸で結成された「平岸天神ソーラン踊り保存会」。「天神」が雷の神（火雷天神）だったという起源まで辿って考えると、漁民が出漁のとき天候の荒れ等を恐れ、雷神を祀る気持ちで演舞を行ったのかもしれない。

「新琴似天舞龍神」チームの華やかな衣装と迫力ある旗。（２０１２年６月１０日）

平岸天神チームに対抗しようと、札幌市新琴似地区で「新琴似天舞龍神」チームが１９９８年に発足した。「龍神」も無論水神や海神として、漁民の大漁と航海安全を祈願する場合に祀られている。因みに今年の「天神」と「龍神」の対決は、「平岸天神」が勝利をおさめ、３年ぶり８度目の大賞を受賞した。

他にも、石原水産と北星学園大学が踊った「漁夕唄」で披露された、黄金岬を背にする留萌のニシン漁に歓喜する唄声や、北海道枝幸郡枝幸町の「夢想漣えさし２０１２海心母響」の演舞で表現された浪のような煌き等は、どちらも漁民の海に対する愛着、感謝と畏敬の念を物語っている。

「新琴似天舞龍神」チーム等は道内ばかりでなく東北の被災地でも活動を続けている。また、岩手、宮城、福島の被災３県からも９チームが参加し、札幌で踊っていた。彼らの一生懸命な演舞を見て、私はふと中国の「漁夫号子」（漁師の囃子）を連想した。「漁夫号子」も「ハイツオー」等の力強い掛け声があり、漁業の危険や豊漁の歓喜を歌っている。かつてあれほど畏敬され、感謝されていた海は、今や人類の活動で汚染されつつあり、その汚染によって漁民の生活が脅かされている。そこに潜んでいる「天神」や「龍神」の怒りは、祭りで少しでも鎮められるだろうか。

山梨県の「甲斐・風林火山」チームの地方車のスポンサーはサッポロドラッグストアー。そのイメージ・キャラクターはなんと台湾の女優林志玲（リン・チーリン）。（２０１２年６月１０日）