~日中市民協力の映画や国際シンポ開催~
斎藤文男(南京大学日本語学部専家)
経済大国から文化強国へ。物心両面でバランスのとれた社会を目指し「物の豊かさ」から「心の豊かさ」へと方向舵を切り始めた中国。その政策の一つとして、今春、南京市で開かれた江蘇省の文化発信提言座談会に出席した。私は、映画による中国のイメージづくりなどを提案したが、時間の制限もあり言葉足らずに終わった。発言出来なかったことも含め、中国文化発信の方策を改めて提言したい。
◇漢詩を題材にした映画づくりを◇
江蘇省の対外宣伝活動に関して開かれた座談会(南京市内のホテルにて)
座談会は新華社江蘇省支社主催で開かれ、江蘇省内各市の幹部や国内外から10人あまりの専門家が参加した。私は日本で新聞記者をしていたことで、外国人メディアの立場から発言してほしいとのことで出席した。
出席者からは、「見る人たちは“映像”よりもその中にある“画面”を印象として記憶する。たくさんの映像より“画面”に“江蘇的要素”を取り入れてはどうか。」「江南地方の都市は“女性的”と思われているが、経済の発達や“偉人輩出”のほか、雄大に流れる長江など“男性的”イメージもあり、宣伝映像の中に入れるべきだ。」「江蘇省はこれまで、学者や国の指導者など多くの人材を輩出してきた。“教育”を江蘇省の名刺として世界に宣伝したらいい。」など、活発な意見が出された。
私は中国のイメージづくりには、映画がもっとも効果的であることを提案した。中国人の間で今、日本の北海道が観光地のスポットとして非常な人気となっている。これは北海道の雄大な自然を背景にした中国の映画がきっかけになった。中国映画「非誠勿擾」(邦題訳「狙った恋の落とし方」)だが、この映画のおかげで、北海道を訪れる中国大陸からの観光客は、2000年度に2400人だったが、2010年度には13万5500人と56倍あまりに急増している。私の学生の中にも、日本に留学したら北海道にぜひ行きたい、という声が圧倒的に多い。北海道の雄大な青空と、どこまでも広がるお花畑など大自然の背景が中国人の憧れの地となった。
「南朝四百八十寺」に代わり煙雨に霞む南京市内のビル群
これにならって私は、江蘇省のしっとりと落ち着いた自然や漢詩を取り入れた映画づくりを提案した。“千里鶯啼いて緑紅に映ずる”「江南の春」、朧月夜に霞む「寒山寺」や“南朝四百八十寺”を思わせる南京市内の高層ビル群の発展場面などを背景にしたらどうだろう。世界の文化の頂点にたっていた唐代、宋代の漢詩を素材に、ゆったりとした壮大な自然や、幻想的で歴史のある寺院の映像とともに中国文化を紹介すれば、経済大国とは違った中国のイメージが出来上がると思う。
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