■30年間の気温記録や育児日記にも
手帳は時間の記録だけではなく、歳月の蒐集でもある。手帳の内容には、スケジュールやコメントだけでなく、個人の生活や趣味の記録もある。ある農家の人が30年間毎日の天気や気温を記録してきたことや、主婦が16年間、毎年燕が家にくる風景を手帳に描いたとニュースで見たことがある。札幌市ボランティアガイドのSさんは、中国人観光客を無料で案内しているうちに、中国語を勉強するようになった。そういう彼女の手帳には、なんと唐詩と現代語訳が書いてあり、時々暗唱しているそうだ。また、結婚してから毎日のレシピを記録するものもあり、子供が生まれて5歳まで毎日の成長を記し、将来子供にプレゼントとしてあげようと考える人もいる。手帳を家計簿として使い、何十年もの収支を詳しく記録する人もいる。清代の商家の帳簿が文化財になっているように、捨てられず引出しで保存される手帳も、貴重なものではないか。
札幌市ボランティアガイドのSさんの手帳、杜甫の詩と現代語訳が書かれている
以上、周りの日本人の生活記録は、日本が「手帳大国」であることを私に確信させた。また、日本人が個人の付き合いの予定をも手帳に書き入れるという習慣に、「時間厳守」の美徳ばかりでなく、「一期一会」の精神をも感じた。「一期一会」を語る禅僧も、茶会の約束の日を手帳に記し、その日が迫ってくる時期に茶道の作法を練習したり、茶碗を拭いたりしていたのではないか。日本人と約束するたびに、その人が真剣に手帳を開き「周さんと…」と書く姿を見ると、大切に扱われているように感じる。
|