アジア太平洋「回帰」の負の影響
しかし、米国が中国に対して戦略的抑制を行おうとしているのではないにしても、米国のアジア太平洋戦略調整は中国に大きな影響を及ぼすはずだ。事実、この2年間アジア太平洋地域の摩擦は絶えず、もともとかなり脆かった中米間の戦略的相互信頼がさらに揺らいだ。米国のアジア太平洋戦略にこうした負の影響が出たのには、少なくとも次の3つの原因がある。
11月22日、韓国ソウルで、スローガンを手に米韓自由貿易協定に反対する人々 (朴真熙撮影)
(1)超大国である米国は、世界や地域の権力構造においてかなり大きな割合を占めており、そのパワーにいかなる変化が生じても地域や他国に大きな影響を与える可能性がある。米国のアジア太平洋戦略調整はアジア太平洋地域のパワーバランスを変えた一方で、多くの国の戦略的見通しを変え、もともと比較的安定していた同地域を動揺させ始めた。アジア太平洋諸国は、強大な政治経済軍事力を持つ中米が手を結んで「共同統治」をすることも両国が対立することも望まなかったため、米国のアジア太平洋戦略に積極的に働きかけ、中米関係に楔を打ち込もうとした。その結果、大国間に疑惑が生じ、地域協力も原動力を失った。
(2)実際のところ、オバマ政権が「アジア太平洋回帰」を謳った時、アジア太平洋戦略は完全に出来上がっていなかった。オバマ政権の発足当初、アジア太平洋への注力強化については明確だったが、どのように強化するか、どの面に注力するか、最終的にどのような局面を形成するのかなどは実ははっきりしていなかった。「リーダー」たる米国に戦略計画上の「空白期」が生じたことは、明らかにこの地域に多くの負の影響を与えた。多くの国が米国のアジア太平洋戦略案を傍観・憶測したと同時に、もともと非常に活発だったアジア太平洋地域の地域協力と多国間協議が突然停滞した。アジア太平洋地域に摩擦が生じる中で、状況はより悪い方向に向かっていった。
(3)米国の「アジア太平洋回帰」には現状を変えるという特徴があり、そのために中米間の戦略猜疑心が深まることは不可避である。現在国際体系上の主導国である米国は「現状維持」国であると見なされている。国際関係論では、台頭国は現状を変えようとし、霸権国は現状を維持しようとすると考えられるからだ。しかし、こうした法則が実際の状況と合致するとは限らない。現在の米国のアジア太平洋「回帰」戦略は、実は過去のある期間におけるアジア太平洋地域の現状を変え、現在の地域権力配分の中から利益を手にしようとするものだ。したがって、現状を変えるという特徴を持つ米国政府の現在のアジア太平洋戦略調整は必然的に中国の利益に抵触・影響し、中米関係を揺るがすことになる。
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