◇映画、テレビの映像で日本人をイメージ◇

南京事件をいつまでも避けていたのでは、双方の国民感情のわだかまりはとけない。真正面から向き合って話をすれば必ずわかりあうことができるはずだ。そのための儀式として、日本の首相が南京を訪問し、犠牲者に献花することが必要だと思う。この儀式を経ていないため、中国人の日本人に対するイメージは７０年間以上たっても変わっていない。抗日戦争の映画やテレビで、日本人役はいつも極悪卑怯で小心者として描かれ、そのイメージが現在の日本や日本人として記憶されている。

　　　「南京大虐殺７４周年記念追悼集会」で「和平大鐘」を突く日中両国の僧侶　

南京事件を描いた張芸謀監督の新作「金陵十三釵」でも、旧日本軍の加藤中尉役を演じた小林成男氏は「中国１３億人すべてから憎まれてみせよう、と思いました」と語ったという。歴史をしっかりと認識してもらうために、映像の中では迫真の演技が必要だが、観ている中国人には、映画の映像がそのまま７０年間あまり経た現在の日本人のイメージと直結してしまう。

私の周囲の学生たちも、大学で日本語を学ぶまでは、「日本人はずるくて、度胸がなく、非道な人間だと思っていた。」という人が何人もいる。日本語を学び、日本や日本人と接触したり、日本に留学して日本人や日本の歴史、社会を知ってからは、日本人のイメージがまったく変わったという学生が多い。

日本語を学んだり、日本人と接触のない多くの中国の人たちに、映像の中のイメージと現在の日本や日本人を峻別してもらうには、日本の首相が南京で犠牲者に献花をする儀式が必要だ。イメージが変わりわだかまりをなくして、現実の日本や日本人の姿を見てもらえば、相互理解はいっそう深まるはずだ。

 ◇日本の歴代３首相が歴史を直視◇

そのための儀式の段取りは、歴代の日本の首相がすでに済ませている。

１９９５年５月、村山富市首相が戦後５０周年にあたり、戦後の日本の首相として初めて北京市郊外にある盧溝橋を訪れ、近くにある抗日戦争記念館を見学した。９７年９月には橋本龍太郎首相が瀋陽付近の「９・１８」記念館を見学。０１年１０月には小泉純一郎首相も、村山首相が訪れた抗日戦争記念館を訪れている。

小泉首相の訪中にあたっては当時、南京を訪問か、といううわさも流れた。橋本首相の場合は、外務省が事前に下見をしたが、結局取り止めになった。歴代の首相３人が日中戦争の歴史を直視する姿勢を示したのである。２０１２年の節目の年には、現職首相が南京を訪問し、双方に残っているわだかまりをとかす番だ。

日中が国交を回復した１９７２年は、自民党内部にも反対をする勢力が強かった。田中角栄首相は、首相就任前からの持論であった日中国交回復を決死の思いで成し遂げた。大任を果たして日本に帰る機内の中で、田中首相は同行していた大平正芳外相に「お互い命があって、無事で帰る事ができたなあ」と語り、安堵したという。文字通り命を掛けて「政治主導」を果たしたのだ。

２００９年、民主党は「政治主導」を掲げて自民党から政権を交代させた。以来、３人目の首相が初めて中国を訪れ、首脳会談に臨み、「戦略的互恵関係」を深化させることで一致した。そのイニシアティブの一つとして、１２年を「日中国民交流友好年～新たな出会い、心の絆～」として、全面的な国民交流を推進するという。