チャン文化継承者の困惑と苦渋
釈比文化、チャン族刺繍、羊皮鼓舞(羊の皮で作った太鼓を叩きながら踊る民間舞踊)などチャン族の非物質文化(無形文化財)は、チャン族文化で最も重要な要素だ。楊国慶氏は、チャン族集落を復元しチャン族文化を保護するほかにも、チャン族非物質文化の保護も同様に重要であると言う。チャン族非物質文化遺産継承の中心的人物と継承者たちを守り、継承のための空間 (場所)や環境を守ることは、非物質文化遺産保護の二大重点である。
農閑期にチャン刺繍の女性用靴を作るチャン族の女性 (撮影 石剛)
記者がチャン族の集落を訪れた際、国から「チャン族非物質文化継承者」に認定されている老人たちはみなチャン族文化の継承と発展について憂慮していた。そのうち最も憂慮されていたのが釈比文化の継承である。
釈比文化は歴史あるチャン族が現在まで伝えてきたユニークで原始的な宗教文化である。釈比はチャン族で最も地位があり、彼らは霊界、神界、人間界の事に通じ、魔除けや病の治療をし、山を祭り願ほどきをする。文字による記載のないチャン族文化は釈比が歌い口承することで代代継承されてきた。
綿虒鎮羌峰村の王治生さんという釈比は記者に次のように語った。チャン族の釈比文化は古いチャン語で歌われ継承されてきたが、歴史的な原因で、釈比の人数はだんだん少なくなってしまった。特に21世紀に入ってから、チャン族の若者で古い宗教文化に興味を抱く人はますます少なくなった。「わたしたちの世代の釈比がこの世にいなくなったら、後の世代の人々は教科書か博物館でしか釈比文化を知ることができなくなるかもしれない。なんと大きな損失だろう」。王さんは悲しげに語った。
王治生さんと同じように、蘿蔔寨村に住む釈比の王明全さんも釈比文化の継承について憂慮している。王明全さんは記者に、釈比文化の伝習には場所と時間が必要だ、と語った。王明全さんには弟子が3人いるが、一家の重要な労働力である弟子たちは働きに出て家族を養わなければならず、生計のために釈比文化を学ぶことをあきらめ、畑仕事をしたり出稼ぎに行かざるを得ないことが多いのだという。
王明全さんは、国は釈比文化継承のために資金を出してチャン族文化継承の場を保護し、釈比を学ぶ村民を支援するべきだ、と言う。こうして初めて歴史ある神秘的なチャン族の歴史が釈比文化を通じて代々継承されていくのである。
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