梅新育(商務部国際貿易経済協力研究院副研究員)
1月14日にチュニジアのベン•アリ大統領が退陣し国外逃亡して以来、西アジア・北アフリカのアラブ諸国の政治的動揺は次第にエスカレートしている。複数の国で流血をともなう衝突が起き、アラブ世界で最も人口の多いエジプトでもチュニジアに次いで政権交替が行われ、リビアの政治的動揺は内戦、さらには国際戦争にまで発展した。この政治的動揺の直接の導火線は社会の不公平さ、腐敗、高い青年失業率などの問題だったが、収拾のつかない動乱、ましてや戦争はこれらの問題を解決する助けにはならず、かえって情勢をいっそう悪化させるだろう。今回の西アジアと北アフリカのほとんどすべてのアラブ諸国を巻き込んだ政治的動揺は、当事国と地域内のその他の国の経済と国民生活に大きな衝撃を与え、そのはかり知れない影響も今後さらに表面化してくるだろう。国際商品と金融市場も極めて動揺している。
リビア空爆後、リビアとエジプトの国境地帯で大量の難民が発生した。写真は3月29日エジプト赤十字が配った食料と水を受け取るために列を作る難民 (才楊撮影)
政治的動揺の経済的背景
今回政治的動揺と政権交替が起きた西アジアと北アフリカ諸国の経済状況と1人当たり平均所得は所在地域や同類国の中でひどい状況とまでは言えず、むしろ富裕層もかなりおり、発展途上国のお手本とされてきた。国連の統計によると、2008年、リビアの1人当たり平均GDPは1万4479ドル、チュニジアが3955ドル、エジプトが2162ドル、アルジェリアが4588ドル、バーレーンにいたっては2万7248ドルにも達している。最初に政権交替が起きたチュニジアのこの20年間のGDP年間平均成長率は5%で、国際社会から広く注目され賞賛されてきた。しかし多くのアラブ諸国は青年層の高い失業率に悩んでおり、人口構造が若く、青年人口比率が高いものの、青年層は経済社会の活力になっていないばかりかかえって動揺の源となっていた。こうした状況下で、横行する腐敗と社会の不公平さなどの現象が、人々の間に広まっていた不満にさらに油を注いだ。
しかし、高い青年失業率の問題は当該地域の無秩序な人口増加と経済構造の不合理性に起因するところが大きい。
石油の富と競争力ある製造業の並存が難しく、石油収入の増加がしばしば石油輸出国の非石油産業(特に製造業)への打撃となるのはなぜか。そのメカニズムは次のようなものだ。
まず、石油収入は為替レートメカニズムを通じて非石油産業に打撃を与える。石油輸出収入の増加は、巨額のオイルマネーの流入をともない、石油輸出国の本位貨幣相場は上昇基調へと向かう。そしていつのまにか、石油輸出国の非石油製品価格は本位貨幣ベースでは上がっていなくても、国際市場での外貨ベースで価格が上がるようになり、輸入製品の本位貨幣ベース価格は下がるようになってしまう。為替レートの変動は国産製品価格の競争力に打撃を与え、顧客は外国製品を多く買い、石油輸出国の製品をあまり買わなくなっていく。
次に、各種生産要素の奪い合いにおいて、石油業は非石油産業を不利な立場に追い込んでいく。いかなる産業の発展も、労働力、資本、土地などの生産要素と切り離すことはできない。さまざまな産業分野における労働力、資本など生産要素の奪い合いで、原油価格上昇の恩恵を受けた石油業は明らかに有利である。高額の給与を出せるため、石油輸出業が雇うことのできる高資質の労働力は比較にならないほど多い。利潤率が高く、高い利息や配当金を支払う能力があるため、石油業はより多くの貸付金、投資を受けられる。このようにして、石油業は非石油産業の停滞を代価にして自身の拡張を実現してきたのである。
歴史上、新たに発見された自然資源を大規模に開発した国のほとんどすべてで、上記のような状況が起きた。1970年代以降、北海油田・ガス田から巨額の収入を得てきたイギリス、ノルウェー、オランダなどの先進国から、近年石油輸出収入で潤っているにもかかわらず軽工業と従来型重工業の衰退に苦しむロシアまで、どの国もかつてこうした苦境に陥った。
西アジアと北アフリカの石油輸出国が経済の多元化を大いに推進するようになってからすでに数年たったが、貿易や金融などサービス業の発展については、アラブ首長国連邦、バーレーンなど少数の国が目覚しい成果を上げている以外、ほとんどの国は今に至るも顕著な成果が見られない。多くの国の非石油産業はコスト的にも品質的にもまったく国際競争力がなく、貿易自由化環境では財政補填に頼らざるを得ない。一部の高収入国は高額の財政資金を投じて小麦栽培など明らかに現地の自然条件に合わない産業を発展させようとしているが、コストだけで世界市場における当該製品価格の数倍、ひいては数十倍にも達してしまう。
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