長期的に見て6大憂慮が存在する
丁教授の考えでは、食糧安全に関する6つの憂慮すべき点を早急に重視すべきである。まず1つ目は、食糧安全を軽視する現象があるという点である。中央政府は、国家の食糧安全の確保を重大な戦略任務としているが、一部の地方では、農業と食糧生産を犠牲にするという代価を払って工業化、市場化、都市化を発展させており、これは珍しいことではない。
2つ目は、将来的に食糧の消費量が供給量を上回るという点である。丁教授によれば、人口の増加や国民による食品構造の改善、食品工業の振興、飼料工業の拡大に伴い、全国の食糧総需要量は確実に増加するだろう。2020年には全国の食糧総需要量が6億トン以上に達し、同時期の全国食糧総供給量が需要量を満たすことはできず、確実に食糧不足に陥ると見られている。
各省のデーターから見ると、中国の食糧主産地13カ所の中で、2009年の時点で、10カ所のみで食糧の対外販売がされており、残りの3カ所は、もともと余裕のある食糧を輸出していた省で、現在では基本的に自給できている省となっている。
丁教授は、「需給不足は拡大の一途をたどり、基本的に自給できている地域であっても、自給率は低下する傾向にある。これは中国における食糧生産と販売、食糧の安全に新たな矛盾点と問題をもたらしたといえ、真剣に対応策を考えていかなければならない」と語った。3つ目は、農業資源に対する制限が今以上にきつくなるという点である。主に以下の原因を含んでいる。①一人当たりの作付面積が減少し、数量と質が共に低下する。②一人当たりの水資源量が少なく、需給における矛盾点が突出している。③食糧農業の生態環境汚染が深刻であり、資源問題の深刻度も増している。農業部のデーターによると、現在中国での一人当たりの作付面積は1.43畝未満、水資源は2070立方メートルで、世界の平均レベルをはるかに下回っている。
4つ目は、食糧生産資源の配置と生産構造の釣り合いが取れなくなっている点である。もともと稲の主産地の南部地域は、現在では食糧の主要販売地域となっており、水稲栽培の面積は大幅に縮小し、総生産量は下降の一途を辿っている。現在、中国における食糧生産が北部地域に移ってきているのは明確で、もともと水不足の北部地域であるだけに、灌漑による水源の確保が更に厳しくなっている。
5つ目は、中国には高い素質を備えた食糧農業の生産人員が不足しているという点である。現在でも、農業生産は一戸単位の小規模な農業経営が主流であり、農業に従事しているのは高齢者か女性で、若者や壮年の男性は少ない。また、科学技術を取り入れた農家となればその数は更に少なくなる。丁教授は「農業大国として、高い資質を持った働き盛りの人員が不足していては、憂慮しないわけにはいかない」と語る。
6つ目は、外資の独占的食糧業者が中国の食糧産業界を侵食しようとしているという点である。米ドルの安値傾向により、国際市場において米ドル計算されている食糧価格が更に値を上げている。こういった要因に刺激、または駆り立てられる形で、価格が上昇している食糧などの大口農業製品市場に国際投機資本が流入しているのである。現在、世界の四大外資食糧メーカー、ADM(アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド)、ブンゲ、カーギル、ルイ・ドレフェスは「四大食糧帝国」と呼ばれ、世界の食糧貿易量の80%前後を占め、食糧価格の絶対的な決定権を握っている。現在のところ、中国は世界の食糧市場でほとんど発言権がなく、国内企業の多くは西側の価格情報を政策決定の根拠にしており、「落とし穴」に陥りやすい。
丁教授は言う。「中国の食糧安全の持続可能性には確かにリスク要因が隠れており、真剣に対応しなければならない」。
「 北京週報日本語版」2011年3月2日
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