本誌日本語専門家 勝又あや子
田子坊は上海で人気のトレンド・スポット。上海の伝統建築である石庫門住宅や工場跡地に、アトリエやスタジオ、アートショップ、カフェ、レストラン、雑貨店などが集まり、上海の昔ながらの暮らしが色濃く残る街並みと、アーティスティックでスタイリッシュな雰囲気とが不思議に調和した注目のエリアだ。今ではツアーバスが来るほどの観光名所になり、日本の旅行会社もツアー内容に組み込むほどだ。
上海・田子坊で活躍するデザイナー・テキスタイルスタイリストの今渕悦子さん
そのメインストリートである泰康路210弄を入ると、すぐ右手に田子坊の旅行案内所がある。そこで売られているセピア色をした観光マップには、ペンでラフにスケッチしたようなイラストの地図と、路地ごとの店舗一覧が掲載されている。迷路のように入り組んだ田子坊散策の強い味方だ。この地図をデザインしたのは、今渕悦子さんという日本人の女性デザイナー。田子坊でレストラン「La Brasserie by Hiro」のディレクターを務めながら、デザイナーやテキスタイルスタイリストとして活動している。「田子坊Tianzifang.info」というウェブサイトを運営し、日本語と英語で田子坊の情報発信も行なう。
今渕さんがデザインを担当した観光マップ
今渕さんが上海に来たのは2007年の8月の終わり。14~15年来のつきあいがあるシンガポール人の友人に誘われたことがきっかけだ。イタリアのナポリでフリーのテキスタイルデザイナーをしていた今渕さんは、その頃ちょうど東京に戻ったところだった。試しに訪れてみて、「もともと外国のほうが好きなところがあったし、上海のわいわいと賑やかな上り調子な感じが東京よりいい」と感じ、「あ、いいじゃん、来ちゃおうかな?」と上海で暮らすことを決意。しかしフリーランスで仕事をしていた関係で拠点がなかったため、誘ってくれた友人が田子坊で開いていた店をひとまず手伝うことにした。それが今渕さんと田子坊との縁の始まりだ。その後、徐々に飲食店のサポートの話をもらうことが増え、ひとまず飲食店のディレクターとして田子坊に腰を落ち着けることになった。
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