──上海万博は中日経済の発展にどんな影響を与えますか。この点について、江原館長はどうお考えでしょうか。
日本館を訪問された指導者の多くが、日本の環境や省エネ関連技術の水準の高さを指摘されます。今後は、日中が協力して、環境問題など地球的課題に取り組むことになると思います。こうした分野で、日中間で交流がさらに促進され、また、企業間で新たなビジネス関係が構築されると思います。日中貿易関係では、水平貿易の程度が高まり、また、投資関係では、双方向の投資関係が急速に進展するようになるでしょう。特に、中国企業の対日展開が増えることを期待したいものです。上海万博の開催で中国のソフトパワーが大いに発揮され、中国に関心をもつ企業、特に中小企業や日本人が増えると思います。
──経済の面で、「より良い都市、より良い生活」という上海万博のテーマについて、江原館長はどうお考えでしょうか。
良い都市、良い生活は、経済成長があれば築くことは可能でしょう。でも、「より」良いとなると、経済成長だけでは不十分です。上海万博で「より良い」とは一体何なのかを、中国館、外国館の展示、イベントなどを通じ世界に発信できたらよいと思います。つまり、このテーマには、経済発展の行きつく先は、地球環境を守ることだ、という意味が込められており、画期的なテーマであることをもっと強調したほうがよいと感じています。
また、中国では、目下、都市化が積極的に推進されており、もうすぐ2人に1人が都市に住むことになります。「より良い都市、より良い生活」には、中国の未来がかかっているといっても過言ではないでしょう。
日本館では、2020年を想定した都市の様子を、「ゼロ・エミッション・シティ」として紹介し、「より良い都市」を建設するための提案をしています。また、「ライフウォール」(未来のリビング、壁上にテレビや様々なコンテンツを配置し、人のジェスチャーで自由に居間空間を実現できる)や介護ロボット、バイオリンを弾くロボットなど実演もあり、未来の「より良い生活」のためのヒントを提供できると確信しています。
──上海万博と万博後の中国経済に対して、江原館長はどんな期待がありますか。
中国に対する国際社会の理解が大いに進むことを期待しています。日本も大阪万博の開催により、世界の対日理解が進みました。中国経済の国際化、特に、「走出去戦略」(中国企業の海外展開)が急ピッチで進んでいますが、海外の対中理解が進まないと、真の国際化が難しくなります。万博史上最大となる上海万博には、世界から多くの人が中国にやってきて、上海万博の会場や中国各地を観光し、また、世界各地のメディアが中国事情発信することで、対中理解が進むと思います。上海万博は中国の経済発展の成果を発信する機会というより、むしろ、世界の目が上海、そして、中国に六ヵ月という長期にわたって注がれていることにより、中国という国、人々に対する理解が深まる大きなチャンスであると思います。
また、同時に中国にとって、上海万博は経済力(エコノミック・パワー)と同時に、中国のソフトパワー(世界における好感度アップ力)を発揮する絶好の機会だと思います。
江原規由氏プロフィール
1950年生まれ。東京外国語大学外国語学部卒業。日本貿易振興会(ジェトロ)入会。香港大学での研修、日中経済協会、バンコク・センター駐在などを経て、1993年大連事務所初代所長に。1998年大連旅順市から名誉市民の称号を授与される。同年海外調査部中国・北アジアチームリーダー、2001年北京・センター所長となり、2005年10月よりジェトロ企画部事業主幹(中国北アジア担当)に就任。現在、日本貿易振興機構(ジェトロ)海外調査部主任調査研究員、上海万博日本館館長。
「北京週報日本語版」2010年5月31日
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