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◇まほらまの南京生活⑩◇~文化交流の民間大使~
(~ウェンナン先生行状記~)

 

南京大学日本語学部専家・斎藤文男

 今年9月、南京市の“文化交流民間大使”に任命された。招聘状には南京市対外文化交流協会、南京市人民政府新聞弁公室の名称と押印があり、「南京対外文化交流使者」の肩書がついている。任期は2010年度までの2年間。南京にいる海外企業の駐在員や外国人留学生、音楽家、医師、教師、武術家、海外にいる南京人などさまざまな分野から700人が推薦され、審査の結果うち100人が認定され、私もその一人に選抜された。政治、経済、科学技術などの対外交流は国益や利害関係が優先され、双方の事情によってはぎくしゃくする場合が多い。しかし、文化交流が根底にあれば、利害関係に左右されない強固なものになる、と私は以前から考え主張している。大学の同僚の先生方や学生も、民間大使になったことを歓迎してくれたのは嬉しかった。

写真① 民間大使の招聘状を持つ筆者(南京テレビ局の認証式で)

写真② 日中協同事業で見事に復旧した南京城壁

写真③ 玄武湖に沿って復旧し往時の美しさを再現した南京城壁

写真④ 南京城壁修復10周年記念式典で挨拶する平山郁夫氏=2005年9月6日写す

写真⑤ 「中秋の名月を愛でる日中音楽の夕べ」で合奏する筆者(右)=左は二胡奏者の薫金明老師

◇チャルメラの音とラーメンの味◇

 私は小学校3年生からそろばん学校に通っていた。6年生になると、小学生では合格者がいなかった1級の試験に挑戦するクラスになった。帰りの時刻はかなり遅くなっていた。自宅に帰る途中で、いつもラーメン屋の屋台のおじさんに会った。チャルメラの音色に惹きつけられ、いたずらに吹いたりしているうちに親しくなって、ある時、おじさんはラーメンをごちそうしてくれた。

敗戦後8年たったが生活物資に乏しく、ろくな食べ物もなかった。ダシのきいた脂っこいスープと麺の味は、この上なく美味かった。おじさんは話し方から日本人ではなかったようだったが、そんなことはどうでもよかった。

以来、チャルメラの音色とラーメンの香りがすると、体の中からなにかエネルギーのようなものが沸いてくるように感じ、無性に嬉しくなった。高校時代、大学受験で夜中にチャルメラの音色がすると、何か郷愁を覚え食欲を誘ったが、毎回買えるほどの余裕はなかった。

 子供のころ体にしみ込んだ音色と味は、生涯忘れることができないものだ。半世紀以上も経って、南京市から“文化交流民間大使”の称号をもらった時、なぜか小学生の時に食べたラーメンの味と、哀愁を帯びたあのチャルメラの音色を思い出していた。32年前、初めての訪中で南京に立ち寄った時も、8年前に南京で長期滞在をスタートした時も、まったく違和感はなかった。小学校時代に住んだことのある懐かしい故郷に戻ったような感覚を味わっていた。

南京生活9年目になっても、「日々是愉快」に学生たちと恙無く過ごすことができるのも、あのおじさんのお陰だと思う。おじさんは50年、60年後を見通して、ラーメンをごちそうしてくれたのではない。毎日、夜遅く出会う小学生を単に可愛いと思って、何の見返りも期待せずラーメンを1杯おごってくれたのだろう。文化交流とはこのようなことなのではないか。あのおじさんこそが、立派な“文化交流大使”だと思えてくる。

 

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