タンチョウの飼育と繁殖
今のところ、タンチョウは、中国、日本、朝鮮、ロシアなど数少ない国と地域だけに生息している。「5年間にわたるタンチョウ繁殖期に関する野外調査」の統計データに基づき、扎竜湿地に生息する野生のタンチョウは約300羽だと科学者たちは推計している。
「いかに野生の生息数の増加を加速させるかは、われわれが解決しなければならない難問だ」と、黒竜江扎竜国家級自然保護区管理局の王文鋒副局長は言う。高級技師でもある王文鋒氏は、人工孵化と飼育を行うとともに、現地で野生化を進めることで、野生の生息数を増やすことが、この絶滅危惧動物を保護する効果的な方法の一つだと見ている。
扎竜自然保護区は中国では早くからタンチョウの飼育・繁殖・野生化の最重要研究基地となっており、世界で人工飼育のタンチョウの種を最も多く有する保護区だ。設立された1979年から人工飼育を始め、次第に放し飼いの種を育成した。これまでの30年間に人工繁殖させたタンチョウは計800羽を上回っている。DNA鑑定をした結果、その遺伝子は野生のタンチョウとほとんど違いがないことが明らかになった。
その他のツル類と同じく、タンチョウも最も警戒心を持つ鳥類であり、たとえ最も微弱な音か危険な兆しであっても見逃すことはない。特に、つがいとなったタンチョウの愛の絆は深く、「一夫一妻制」を厳守し、一生離れず、もし一方が先に死んだら、もう一方は単独で群につき従って生活し、ほかのオスやメスとは“連れ合い”にならない。“連れ合い”を選ぶ「条件」は非常に厳しいもので、“近親結婚”は絶対しない。オスは一つか二つ年下のメスを選ぶことが多い。両方が“見初めた”場合は、向かい合って鳴き交わし、ダンスをする。この「求愛」の過程を通してやっとつがいの契りを結べるのだ。
扎竜保護区は2つの方法でタンチョウの野生化を行っている。1つは放し飼いだ。毎年の4月から6月まではタンチョウの孵化期。人工飼育のタンチョウが性成熟期に入る春には、配偶者の選択を経て、繁殖するつがいを形成させ、保護区は、こうしてつがいにしたタンチョウを野外に放ち、自由な生活を始めさせる。昼間は飼育係が魚やトウモロコシなどを与え、夜はアシの生えた池で夜を越す。このままで冬を過ごし、翌年の春、野外へ繁殖に行く。だが、このときにはもう幼鳥を連れて行って育てるのではなく、それを銜えていって、自立させる。幼鳥は野生のタンチョウとともに生息し、秋の渡り期になると、野生タンチョウと一緒に中国の南部へ渡り、人為的な干渉がなければ、順調に現地での野生化を達成できる。これまで、放し飼いで繁殖したタンチョウのつがいは12組おり、毎年孵化したヒナは10羽以上となっている。
もう一つの方法は放鳥だ。野生化を実現するには、タンチョウに強靭な飛翔能力を持たせることが必要だ。保護区ではヒナが飛べるようになると毎日、飛行訓練を始める。現在、163羽のタンチョウが年齢によって5つの組に分けられている。訓練は観光客に公開し、チチハル市の観光ブランドとなっており、毎年これを見に来る観光客は15万人に達している。
王文鋒副局長によると、今後は放し飼いのタンチョウ群ともともとの野生タンチョウ群の関係を重点的に研究することになる。繁殖期にある放し飼いのタンチョウが野生タンチョウの巣を占拠することもあるため、放し飼いにするタンチョウの生息数が多すぎれば、野生タンチョウの繁殖に影響を及ぼす可能性があるからだ。
「保護区はまた水文、鳥類、植生などの通常のモニタリングをしっかり行い、扎竜湿地の生態系を客観的に評価し、さまざまな学科にわたって人工飼育タンチョウの野生化活動を支える」と王文鋒副局長は話す。
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