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◇まほらまの南京生活⑦◇(~ウェンナン先生行状記~)

 

2月中旬、後期授業が始まって1週間。レストランに2人を呼んだ。論文はあまり進んでいなかった。日本で購入した本と資料を渡し、3月中には書き上げ、4月を清書期間として計画的に進めるよう促した。成田空港で買ったお菓子のお土産は男子学生も含め、4年生全員で食べるよう手渡した。

「先生、ありがとうございました。今日の食事代は私たちが払います」

「君たちが就職して給料をもらったらご馳走してもらうよ。今日は私がご馳走するよ」2人は就職もほぼ決まって、実習をしている。朝から夕方まで正規の職員と同じように毎日勤務している。内定した職場で実習をしないと採用にも影響するのだという。実習を終えたら論文執筆に集中するよう督促した。

◇若葉のような学生の炭酸同化作用◇

毎年春に先駆けて一番に羽化する中華虎鳳蝶(チュウゴクギフチョウ)が、今年、紫金山では例年より半月以上も早く出現する暖冬だった。紫金山ふもとにある梅花山の梅花祭りも終わり、大学構内にある桜の花も散り始めた。市内街路樹の新芽が日に日に膨らんできた。新芽は市内全体を色濃く染めて滴る。南京はこの時季、草花や木々、昆虫や鳥たちが活発に動き出す。

毎年、この新芽の蘇りを見るたびに、生命の力強さに勇気付けられる。この新芽がやがて1枚の若葉となり、炭酸同化作用で大気に酸素を吐き出し、根に栄養分を送り樹木全体を成長させる。それは若い学生1人ひとりが、卒業後、地域や国の発展を促す力になるのにも似ている。学生の炭酸同化作用を促すために、教師の立場にある私は、太陽エネルギーにはなれなくとも、二酸化炭素ぐらいの役目を果たしているだろうかと考えた。

2人の論文は5月初めまでには完成した。序論、結論部分を関連付けて書き直すこと、目次の割り振りを手直しするよう指示して、最終稿とした。

卒論の審査会は5月中旬に行われた。学生は7人から8人、3組に分かれ1人5分程度、論文の内容を説明する。各組の先生は4人。私は担当した学生とともに3組になった。

◇幅広いテーマと鋭い問題意識◇

学生たちの日本語の会話力や、書かれた論文の日本語にほとんど問題はない。しかし、先生方と対面しやや緊張気味だった。書いた論文の動機や趣旨を説明し、中国人の先生方も日本語で学生に質問する。やがて私が担当した学生の番になった。私の方をチラと見たので、「さあ、ゆっくり落ち着いて」との思いを込めて、軽く肯いた。なんだか、こちらも緊張感を共有しているようだった。学生は2人とも動機や趣旨を的確に説明し、心配するほどではなかった。

学生が書いた論文のテーマは、「歌舞伎における日本人の美意識」「若者の学校内暴力」「日本人若者の友人関係希薄論」「旧日本軍の中国人強制連行」「日本文学に対する白居易の影響」「『ダンス ダンス ダンス』から見た村上春樹の苦境」とさまざまである。日本人大学生の卒論にひけをとらないテーマと内容である。日本人の美意識を歌舞伎に見た女子学生の論文は、日本人の私にもはっと思わせる指摘があり、実に細かい部分まで分析した秀作だった。

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