◇「日本と同じバブル経済に」◇
さらに、経済の失敗についても学んでほしいと、日本のバブル経済が崩壊して、10年間あまり不況に苦しんだことを強調した。土地や株が値上がりを続け、
風船がどんどん膨らんで、ついには破裂してしまったのが日本のバブル経済の結果だった。現在の中国でも、建築ブームとなっており、住宅や事務所のビルがどんどん建設されている。「聞いてみると、あの住宅にはほとんど人は住んでいない。投資目的で値上がりするのを狙っているのだという。これは日本の時と同じように完全にバブル経済だ」。村山内閣の蔵相時代、日本の不良債権問題から、住宅金融専門会社の破綻処理に苦労した武村氏の実感がこもった言葉だけに、中国の現実の不良債権問題を切実に憂慮した言葉なのだろう。
「30年ほど前、日本の首相がフランスに行ったら、フランスの新聞ルモンドが『エコノミック・アニマル』と書いた。日本は経済のことばかりが中心で、精神や心がない、ということだ」と回顧。金権主義が蔓延している現在の中国で、「豊かになるため」の経済が最優先されていることに対して、日本が歩んできた過去の反省から、経済の豊かさよりも、心の豊かさが必要なことを指摘した。
◇緊急を要する「水と緑の問題」◇
最後に武村氏は「緊急を要する問題」として、水と緑の環境問題に触れた。
「中国の水の汚染問題は、30年前の日本と同じ状況だ」と語り、滋賀県知事の時、琵琶湖の水質汚濁防止に取り組んだ経験から、「新しい日中時代に向けて、人、金、技術を大切にする環境協力の新時代を築こう」と提唱した。環境ODAについては、「日本で民主党政権が誕生すれば、実現するだろう」との見通しを述べた。
緑化問題に関し武村氏は、10年前に設立された民間の組織「日中友好砂漠緑化協会」の会長を務めている。講演では、「地球全体では毎年1290万㌶の緑がなくなっている。しかし、植樹などで毎年550万㌶の緑が増えている。このうち、中国での増加は500万㌶だが、差し引き740万㌶の緑が毎年減っていることになる」と緑化促進を緊急課題として強調した。
「私は毎年、中国に来て砂漠に植樹をしている。南京大学の学生のみなさんも一緒に参加してください」と若い人たちの協力を訴えた。
武村氏の講演は、学生を相手にしたものだったが、主張している内容は緊急を要するものばかりである。学生が大学を卒業して社会人となってから取り組むまでにはかなりの時間がかかるだろう。
日本の公害問題や環境汚染が、日本の現状段階まで回復するまでには、40年以上の年月がかかっている。公害や環境汚染対策の必要性が叫ばれたが、経済成長を優先させた結果、解決への道が数10年も遅れてしまった。公害や環境汚染が始まった当初から対策が打たれていたなら、年数も資金もさらには被害者もずっと少なくてすんだといわれている。中国では、日本の失敗に学び、今すぐにでも公害や環境対策に本格的に取り組めば、日本よりずっと少ない年数、金額、被害者で済むだろうと思う。
(南京大学日本語学部専家・斎藤文男 写真は筆者写す)
「北京週報日本語版」 2009年6月12日 |