◇人類より長い“日中友好交流”◇
アゲハチョウ科のギフチョウの仲間は、世界で4種類が知られている。長江中下流から秦嶺山脈にかけて分布する中華虎鳳蝶のほか、秦嶺山脈や湖北省、四川省北部の一部で記録された長尾虎鳳蝶(オナガギフチョウ)、日本や朝鮮半島、ウスリー地区など日本海を取り巻く地域にいるヒメギフチョウ(烏蘇里虎鳳蝶)、日本の本州だけに棲息する日本特種産のギフチョウである。
これらの生息地はいずれも東洋の東の端の狭い地域に限られており、4種類とも非常に近い関係でいわば親戚のようなものである。そして、日本のギフチョウは中華虎鳳蝶から分化したのではないかとみられており、人類よりも長い日中友好交流を象徴する蝶でもある。
今年3月中旬、紫金山の中腹で枯葉の下から羽化してきた中華虎鳳蝶に出会った。傍らには、貴重な蝶が長い眠りから覚め、成虫になるのをそっと見守るように山慈姑の花が咲いていた。鎧のような蛹の皮を脱いだあと、しばらくじっとしていたが、やがて枝を伝って登り始め、枝の頂上に到達すると、呼吸をととのえるように翅を休めていた。間もなくして、意を決したようにゆったりと春の空に飛び上がって行った。
◇日本で幻の蝶が乱舞◇
春を代表するもう一つの橙翅襟粉蝶の仲間は、日本では約1500㍍以上の高山帯のガレ場など乾燥を好む高山蝶である。最低標高の生息地は200㍍付近で必ずしも高山蝶とはいえないが、私は標本を見たことはあるものの、残念ながら日本で実際に飛んでいるのを観察したことはない。山肌に残雪のある初夏、山に行くたびに探したが見つけることはできなかった。
しかし、紫金山の麓では毎年春、乱舞するように飛んでいるという。日本で高山帯を好む蝶が、南京では平地にいるなんて信じられない思いで4月上旬、紫金山の麓に行った。木立の中で幻の蝶がたくさん飛んでいた。夢を見ているようだった。中国名では「エリがダイダイ色の蝶」となっているとおり、オスは鮮やかなダイダイ色の翅の先端を、これ見よがしに光らせながら木立をジグザグに飛翔していた。メスは先端に黒い紋が少しあるだけで全体に白い色をしている。
この蝶の仲間は、日本では高山にいることから雲の間にいるとして「クモマツマキチョウ」の名称になっている。日本では高山で生活する蝶が、南京ではなぜ平地にこれほどたくさんいるのだろうか。人間にはまだその理由は分からない。日本と中国の蝶をじっくりと観察して蝶に教えてもらうしかない。
しかし、南京で見た幻の蝶の食草は、人間には雑草とされている碎米粒(ジャニンジンの近縁種)である。紫金山の麓は数年後、公園にする計画があるという。雑草が抜かれ芝生などで綺麗に整地されればこの食草はすっかりなくなってしまうだろう。
この蝶にとって碎米粒は唯一の主食である。他の食草の“代用食”もあるが、主食がなくなってしまえば、この蝶もいずれは滅びてしまう。ゆっくりと研究して蝶たちに訊くこともできなくなる。蝶のために食草の“雑草”を残してもらうよう環境保護を訴えるか、研究を急ぐしかない。
◇胡蝶たちとの共生環境も◇
紫金山の麓では、春を代表する2種類の蝶とともに、成虫で冬を越したルリタテハ(瑠璃蛱蝶)が、枯葉の上で目いっぱい翅を広げて春の柔らかな日差しを受け止めていた。麓の住宅地にある庭では、ジャコウアゲハ(麝鳳蝶)の蛹が1、2週間後には羽化を迎える準備をしている。
南京市繁華街の山西路広場に植えられた花壇を眺めていると、散歩する市民を無視して、「私たちの方が地球では先輩なのよ」と誇示するように、アオスジアゲハ(青鳳蝶)が忙しげに翅を震わせながら吸蜜していた。
北京オリンピックを契機に、中国では環境保護問題が注目されてきた。緑化運動や自然保護が声高に叫ばれている。それは人間だけのためではなく、人類が誕生するはるか昔から地球上で生活している“先輩”の小さな蝶たちにとっても有益になるよう考慮してほしい。人と蝶が「年年歳歳相似たり」と共生できてこそ、自然環境を保護したことになると思う。(写真はすべて南京市内で筆者写す)
「北京週報日本語版」2009年4月15日
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