本誌記者 金 多優
昨年11月から中国の中部と北部のほとんどの地域を50年に1度という大きな干ばつが襲っている。干ばつ期間の長さ、損害を蒙っている範囲、被災の程度、そのいずれにおいてもこれまでになかったものだ。今はちょうど小麦が越冬後に再び青くなる肝心な時期にあたるため、このまま干ばつが続けば夏季の小麦の収穫に深刻な影響を及ぼすのは必至だ。人口の多い発展途上国として、食糧問題は一貫して中国の最重要課題であったため、今回の干ばつは社会各界から幅広く関心を注がれている。先ごろ、本誌記者が中国一の穀倉地帯である河南省を取材した。
2月10日、河南省安陽市滑県を訪れた。滑県は河南省東北部の黄河古道にある典型的な農業県だ。例年、県全体の約16万6700ヘクタールで穀物を栽培して「河南北部の穀倉」と言われ、穀物の総生産量と商品化食糧の貢献度において河南省でトップの座を占めるとともに、6年連続で「全国食糧生産先進模範県」の称号を獲得してきた。
豫北平原に位置することに加え、黄河の水を引き込むための工事が08年3月に無事終了したため、滑県のほとんどの小麦栽培地域には黄河の水が大功河を経て灌漑できるようになった。車が滑県の県城を出ると、いたるところで灌漑し、耕作している農民の姿が遠望できる。道沿いのほとんどの麦畑ではすでに麦が再び青くなり始め、時折、大干ばつのもとで枯れて黄ばんでしまった一部の麦の痕跡が目に飛び込んでくる。
滑県城関鎮賈固村の農民である李全東さん(58)は、ちょうど自分の畑に灌漑している最中で、「今までは雨不足ぐらいで小麦に灌漑する必要などなかったが、今年の大干ばつでは、麦の青みを蘇らせるために灌漑が必要だ」と語る。麦畑から50メートルほど離れたところではモーターで汲み上げる井戸が活躍中だ。滑県ではモーターで井戸から水を汲み上げ、パイプで給水するのが最もよく見られる灌漑方式だ。
灌漑中の自分の麦畑を見ながら、李さんは少しも心配している様子もなく、「わが家の畑は毎年1000キロも収穫できる。病虫害さえ防げれば今年の豊作は問題ないはず」と話す。
賈固村ではこのほか、農民に「科学的農作の手引き」を配布していた技術員の張心玲さんが「今年の干ばつでは、施肥を増やせば乗り切れると誤解している農民が多いが、それは麦の苗をダメにしてしまう。私たちは干ばつに対抗するための科学的経験を彼らに伝えなければならない」と話してくれた。農民が干ばつを乗り切るのをサポートするため、滑県農業局は46名の技術員を現場に派遣し、科学的な灌漑と病虫害の予防について農民を指導している。
畑ではすでにほっそりした麦の新しい根が育っているのが目に入った。張心玲さんは「経験から言うと、ある程度枯れて黄ばんでも、タイミングよく給水をすれば夏の収穫量には影響しないはず」と言う。
滑県市政府によると、滑県では14日までに干ばつ被害を受けた約11万4600ヘクタールの小麦がすでにすべて灌漑を終えているという。
滑県の敏速な措置のおかげで麦の苗が大量に枯死するという状況には至らなかったものの、今回の干ばつ対策の苗確保では一部の問題が明らかになった。ここ数年、地下水の採掘問題が深刻になり、滑県では地下水の水位が明らかに下がっており、地下水資源の過度な採取が今後の生態系に禍根を残す可能性があるのだ。このほか、黄河からの引水の付帯設備がまだ完備していないため、灌漑予定の13万ヘクタールのうち、その恩恵を受けているのはわずか2万ヘクタール余りという状況も出現している。
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