
山東省の野生ダイズ
人類の農業の歴史は、生物資源と遺伝資源の利用の歴史と言うべきである。いかなる生物もみな遺伝子を保有している。そして遺伝子は、性状などの遺伝を決定づける最も基本的な単位である。1つ1つの植物の異なる組織、器官、部位から細胞に至るまで、そのいずれもが同じような遺伝情報を持っている。1つの種群でも個体によって遺伝子は異なり、それぞれの種の植物はそれぞれ異なる遺伝子を保有している。遺伝子の担体としての染色体は、何千万という遺伝物質と遺伝情報の主な携帯者であり、遺伝と変異をコントロールするとともに生殖と発育をつかさどっており、染色体自身の数や形態、構造、行為もまた遺伝子のコントロールを受けている。種による植物の形状の特徴や疾病はいずれも、異なる位置にある染色体に関係している。植物の遺伝子マップは各染色体の具体的な位置を示すもので、植物の種を登記して遺伝子という写真を貼った「戸籍謄本」のようなものだ。
「種の起源と進化についてはさまざまなレベルから考察することができるが、われわれが着手したのは染色体で、多くの植物の間における親縁関係を染色体から見つけることができる」と陳教授は言う。
染色体の研究に関しては、その構造、機能、行為、進化について言えば、過去に向かうこともできるし、その現在を分析し未来を予測することもできる。このため、遺伝学や細胞分類学、種生物学、分子細胞遺伝学を発展させるものと言える。かつて国家自然科学基金委員会生命科学部の主任を務めたこともある中国科学院植物研究所の洪徳元氏はこの『中国植物ゲノムマップ』の序言に次のように書いている。「これらの学問は異なるレベルと角度から研究が行われているが、いずれも染色体から構成される1つもしくは多くのゲノムを基本単位とするか、もしくは極端な場合は単独の染色体の識別を基礎としている。陳教授らが著した『中国植物ゲノムマップ』はまさにこの面で貴重な基礎資料を提供してくれ、これらの学問研究にとって大きな価値を持つもので、生命科学の基本を築くものの1つである」。
新華社記者の問いに対して洪徳元氏は「目下、一部の人々や組織がイノベーションや生産との結合を過度に重視しているのとは逆に、オリジナルで基礎的な学問研究に対してはおしなべて余り重視されていない。染色体マップの基本技術は古いものだが、このような系統的な仕事を誰かが完成させる必要がある」と答えている。
実際に植物のゲノム・染色体マップは大きな科学的価値を持つだけでなく、極めて広範な「実用的」価値も持っている。たとえば、栽培植物の交雑育種法に基礎データを提供するなど、農業や林業などの産業の発展にとって大きな参考的価値を持っている。
陳教授らは中国の主な栽培植物の分類、起源、進化に対して染色体レベルから新たな見方を提起し、細胞レベルから中国に起源を持つ栽培植物に対して証拠を提供すると同時に、大きな経済的価値と科学的意義を持つ271種の倍数体や倍数性複合体、細胞タイプを新たに発見した。
「倍数体」とは体細胞に3つもしくは3つ以上の染色体の1組を持つ個体を指し、その形成には2つのタイプがある。1つはその本体がある種の未知の原因によって染色体を複製させたあと、細胞がこれに従って分裂せず、その結果、細胞の中の染色体が倍に増え、同質倍数体を形成したものだ。もう1つは、異なる種の交雑によって生み出された倍数体で、「異質倍数体」と呼ばれる。そして、ある種の植物もしくはその近縁群の中には、さまざまな倍数体(同質、異質の)が混合している現象が見られ、複合性倍数体種もしくは種群と呼ばれる。動物界では倍数体が発生するのは極めて少ないが、植物界ではかなり普遍的に見られる。多くの植物種が倍数体の道程を経て生まれており、約33%の種が倍数体である。
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