「遺伝子研究をしている私たちの最大の夢はもちろん、人々の健康のために遺伝子を使うこと」とも王博士は言う。科学者らは今、中国人群の遺伝子多型をつくるスタンダードマップである中国人99人の個体のゲノムマップを作成中で、これは遺伝子と医療、健康の肝心要の構成部分になるという。今後、遺伝性の疾病に対して患者個人の遺伝子マップさえあれば、その中から問題の遺伝子を「捕まえ」、最も直接的な方法で遺伝子を正常な状態に快復させることができると彼らは見込んでいる。
健康とバイオ医薬に関して、中国科学院の会員で、かつて同科学院の北京ゲノム研究所所長を務めた楊煥明氏は、疾病の発生と発展のメカニズムに対する研究を通じて、遺伝子薬物、疾病診断、リスク予測、薬物標的、生育制御などに有用な機能遺伝子を発見し、そこから疾病の診断、治療へと発展させることにヒトゲノムマップの意義はあり、遺伝子工学を用いた薬物、遺伝子治療、バイオチップ診断の技術など、今後の市場は極めて広いと見ている。
楊煥明氏によると、臨床のうえでは、よくある病気の遺伝要因と環境要因をゲノム研究が識別し、ゲノミクス研究を通じて中国人群の健康状態を改善し伸ばすことになるだろうという。「2030年までには、血管疾患、代謝・内分泌疾患など複雑な病気の主なものに対する鑑定と識別が基本的に完了するとともに、これらの疾患と悪性腫瘍の発病メカニズムが解明される見込みだ」と楊煥明氏は言う。当面の研究から見て、ガン患者と精神疾患患者が遺伝子研究の最大かつ最初の受益者となるのではないかと言う専門家もいる。
最近のシーケンス技術の新たな進歩により、生命の進化過程の解読が非常に加速されており、コストが大きく下がり、時間も大幅に短縮されたと王俊博士は言う。自分の遺伝子マップを持つようになれば、人々は辞書を引くのと同じように、発病した器官の最も根源的な決定因子を突き止めることができるようになるのだ。「そのときには、遺伝子治療が根本的に解決し、端的に、直ちに効果が現れる」と王博士は語る。
「個人のゲノムシーケンシングは10年ほどのうちにありふれたものとして暮らしの中に入ってくるだろう」と予測するのは中国工程院の楊勝利会員だ。楊勝利氏はまた、将来的には一人一人のゲノムが測れるようになるとして、「そのようになれば、その人にどんな薬が使えるか、どのような食事が合っているかなどを知ることができる」と言う。
楊勝利氏は、08年10月中旬に大連で開催された第13回国際バイオ技術大会・展覧会(IBS2008)で大会組織委員会主席を務めた。「バイオ技術のオリンピック」とも言われるこの大会は4年に1度開かれる学術大会で、中国大陸では初めて開催された。
この大会のある展示ブースでは、個人のゲノムシーケンシング費用が5年以内には1万元まで下がる望みがあることが示されている。
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