これまでの成功例を見てみると、登録された食関連の無形文化遺産はどれも特定の料理のみではなく、民族文化や伝統風俗を体現したものという側面が強い。「例えば韓国のキムチジャン文化。彼らはキムチという食べ物を、キムチ作りという無形文化にまで広げた。非常に参考になるやり方だ」。取材中、辺疆氏は2013年に世界遺産に登録された韓国のキムジャン文化に何度も触れた。
中国調理協会の分析研究によると、韓国のキムジャン文化の申請書において、キムチ自体はわずか20%しか占めておらず、それよりも料理の概念やキムチ作りの過程における隣近所との付き合い、キムチを食べる時の習慣、キムチ作りがその土地で暮らす人々の精神的な楽しみになり影響を与えていることをより重視していた。実際のところ、隣近所どうしが一緒にキムチを作る慣習がコミュニケーションを深めることがより多く強調されていたのだ。
2010年11月にいち早く世界無形文化遺産に登録されたフランスの美食術は、ユネスコの専門家によって「出産、結婚、誕生日など、生活における最も重要な時を祝うための社会的慣習」と説明されている。中国調理協会副秘書長兼業界発展部副主任の程小敏氏が言うように、「ユネスコの食関連の世界無形文化遺産がより強調しているのは独自の文化になっていることであり、食に体現されているその土地の人々の生活なのだ。ひいてはもっとシンプルな、家庭生活の雰囲気もしくは風俗や祭祀などと関係するものなのではないか」。
中国料理には中国独自の文化が色濃く反映している。旧正月の前日に一家団欒しながら食べる餃子や「年夜飯」(除夜の晩餐)も、中秋の名月に相手を思う心を託す月餅なども、中国文化の核心に寄り添うものだ。また中国料理の大皿や大碗で供される形式は、食事は大勢が集まって食べるものという中国の食文化のイメージを体現したものであり、西洋の1人前ずつ供される方式とは大きな違いがある。
ユネスコの世界遺産登録の申請ルールに基づき、中国料理の世界遺産申請書類は次の三つのパートに分けられる。一つ目は技術で、「蘭花刀」(飾り切り)など調理技術の継承がメイン。二つ目は食に関する慣習で、例えば中国料理はどうして円卓を囲んで食べるのか、旧正月にはなぜ餃子を食べるのか、といった内容だ。三つ目は継承と保護の成功例で、山西省清除県の「老陳醋」(長期熟成酢)の醸造などである。実際のところ、最も期待できるのはやはり食文化に関する慣習面を重点的にアピールすることだ。辺疆氏は言う。「中国医学が鍼灸で世界遺産申請に成功したことが大きな示唆をくれた。今回の世界遺産申請は食と食の背後に伝わる想い、社会慣習、文化の角度から、文化と食との関係を重点的に説明する」。
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