2011年1月11日、高さ9.5メートルの孔子像が天安門の東にある国家博物館北入口前の広場に登場した。国家博物館北入口前の広場は参観者の主要な出入口で、有名な長安大街に面し、通りを隔てて故宮と向かい合っている。
孔子は名を丘、字を仲尼といい、春秋期(紀元前770年~前476年)の魯の国(現在の山東)の人である。中国古代の偉大な思想家・教育家であり、儒家学派の創始者である。中国で最初の編年体史書『春秋』を編纂し、その思想は後世にはかり知れない影響を与えた。
学者の中には、「天安門に孔子像が建ったことは、中国が国家的にも、民族的にも孔子を評価する方向にあることを象徴している」と考える人もいる。それと同時に、反対の声もあちこちから上がっている。人民網が行った「天安門広場近くに孔子像が設置されたことをどう思うか?」という調査では、7割のネットユーザーが反対を表明した。
ゲームメディア・ポータルサイト「游久網(uuu9.com)」の李清編集長は次のように述べている。「孔子は思想史上名高い人物だが、博物館の前に設置するのに最もふさわしいのは孔子とは限らないだろう。なんと言っても国家博物館は国子監ではないし、中国国家文化館でもない。巨大な孔子像は、国家博物館の厳かな建築物とは互いに引き立て合っているかもしれないが、天安門や長安街との全体的な調和については考慮したのだろうか?」
著名な評論家の鄧清波氏は言う。「燦然と輝く偉大な思想家たちを前にして、孔子一人だけを尊ぶことは、現在の多元化した思想面のニーズを満たせないだけでなく、民主法治の時代潮流にも合っていない。どうしても国家博物館前の広場に彫像を設置したいというなら、古代の優れた思想家たちの群像のほうが望ましいと思う」。
中国孔子基金会の副秘書長で、『中国儒学年鑑』の編集主幹である王大千氏は、このような時期に孔子像が天安門に建つのは偶然ではなく歴史の選択だ、と言う。「孔子は中国文化の巨人であり、中国伝統文化のシンボル的人物だ。孔子像を中国国家博物館の前に設置するのは、大変妥当なことだ」。
孔子像の製作に加わった彫刻家の呉為山氏の意見は次のようなものだ。「この彫像は、テーマは孔子だが、孔子一人のみならず孔子を始めとする文化を称えている。その意味で、彫像には勢いにあふれた力強さが必要だった」。
国内で議論紛々なのに対し、海外での儒家文化と儒家思想は異なった受けとめられ方をしている。ハーバード大学の杜維明教授は次のように述べている。「儒家に代表される人文学は人類に自然との調和を求めている。こうした観念は今次第に西洋の知識人に受け入れられ、最もシンプルな倫理になりつつある。現在、世界各地で起こっている生態環境の危機は、人と自然との関係を再度整理し定義しなければならないことを示している。儒家は自然を尊重し、人と自然との調和を強調した。これもまた価値がある」。
天安門広場近くに出現した「孔子像」が私たちに見せたのは、思想のぶつかり合いだ。彫像は一つの符号にすぎない。その符号が示すのは、ある時代のその事物に対する理解と認知である。孔子像がどこに設置されるかが重要なのではなく、大切なのはこの現象を通して私たちが孔子と孔子思想を再認識したかどうかなのである。
『北京週報日本語版』2011年3月30日 |