本誌記者 鄭 陽
2月28日朝、中国中央テレビ(CCTV)の元記者・柴静さんが自費製作したドキュメンタリー「穹頂之下」が無料メッセンジャーアプリ「微信(WeChat)」で爆発的な話題を呼んだ。おかげで馬軍さんとその開発チームは対応に追われた。というのも、柴静さんがドキュメンタリーの中で「汚染地図」という携帯アプリを紹介したからだ。このアプリは馬軍さんが率いる中国の民間環境保護団体「公衆・環境研究センター」が作成したものだ。急上昇するダウンロード数がサーバーをダウン寸前に追い込み、同日午後、同センターの若手社員たちはサーバーの復旧作業に忙殺された。
「汚染地図」携帯アプリの一画面
このアプリは全国190都市の大気汚染指数と汚染物質濃度を提供し、しかも地図上に全国各地数千社の汚染物質排出企業の位置とその排出データを表示している。ユーザーは地図を通じて自分のいる場所の環境データを一目で理解することができ、しかも他地域と比べられると同時に、汚染物質がどんな企業から排出されたのかも知ることができる。
さらに重要なのは、すべてのデータがリアルタイム更新されるということだ。このような「汚染地図」の開発は世界で初めて。馬軍さんはこの地図の開発に10年近くを費やした。
2006年の「中国水汚染地図」から2007年の「空気汚染地図」、さらに水質と大気質両方をカバーした現在の「汚染地図」にいたるまで、馬軍さんがここまで続けてこられたのは、「情報の公開が中国の環境問題を解決するカギだ」という信念に支えられてきたからだ。
「環境問題は司法体制改革と同じように難しいことであり、解決にはきわめて長い期間が必要だ。それまでは、社会や一般市民の監督を代替手段とする必要がある」と馬軍さんは考える。「ある人、ある組織や部門が問題を魔法のように解決することができると考えてはならない。一般市民の幅広い参加が必要であり、そのための前提は情報の公開だ」と馬さんは言う。
「いつの日か、携帯電話を片手に、どんな企業が真剣に法律を守っていないのか、誰がこうした企業を保護しているのかを問い合わせることができるようになるだろう」と馬さんは話す。
馬軍さん
現在、「汚染地図」は成功を収めた。馬さんの紹介によると、このアプリがリリースされる前、外資系企業と民営企業を主とした企業1800社が自発的に一般向けと環境研究センター向けに自社の汚染排出状況を報告していた。リリース後、さらに200社余りが加わったが、これは主に国有大型企業と中央直属企業だった。
それに伴って喜ばしい変化が現われた。山東省のあるガラスメーカーが環境研究センターに提供したレポートによると、同企業は今年2月に生産ラインを改造したため、排出される窒素酸化物の濃度は以前の4分の1ぐらいまで下がったという。
「汚染地図」の機能が充実していくにつれて、馬軍さんは2番目の携帯アプリ「蔚藍地図」を打ち出す予定だ。同アプリでは日常生活における実用的な機能、例えば毎日の汚染指数予報の機能を加え、これによってより多くの人々をひきつけて環境問題に対する認識を高めるのが目的だ。
「世界の経験から見れば、環境対策において最も効果を上げるのは往々にして最初の10年だ。われわれはこれからの10年を無駄にせず、やるべきことをやるように努力していかなければならない」と馬軍さんは語る。
馬軍略歴
国際関係学院国際新聞専攻卒業。水質汚染の防止・整備と環境情報の公開に取り組む。1999年、編著『中国水危機』が出版され、大反響を呼ぶ。2006年6月、公衆・環境研究センターを設立し、中国最初の水汚染公益データバンクである「中国水汚染地図」を作成。2014年6月9日、「汚染地図」アプリが正式にリリースされ、環境データがリアルタイムに更新されている。
「北京週報日本語版」2015年3月6日
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