本誌日本語専門家 勝又あや子
日本の東北・関東地方をマグニチュード9.0の大地震が襲った3月11日の夜。上海在住日本人で会社員のOさんは、上海市古北地区にある飲食店で食事をしていた。すると携帯電話が鳴った。電話の主は同店によく通ってくる別の日本人常連客。内容は次のようなものだった。
「店の前まで来てタクシーを降りようとしたら、運転手から『タクシー代は要らない』と言われ、100元札を差し出されている。でも中国語がよく分からなくて訳が分からない」。
Oさんはあわてて店を出てタクシーに向かい、運転手から事情を聞いた。
「日本は今震災で大変だから、この100元をぜひとも日本に送ってほしいのだが、どうやって送っていいか分からない。あなたたちは日本人だから方法が分かるでしょう?」
Oさんたちは最初受け取りを固辞したが、運転手が「四川の地震で日本から沢山の支援をしてもらいお世話になったので、その時のお返しをしたい」と言うのを聞いて、ありがたく受け取ることにした。
せめて名前だけでもと思ったOさんは運転手に名前を聞いたが、運転手は「普通の中国人の代表だ」と言うのみ。立ち去り際に「これで少しでも日本の皆さんに役に立つものを買って送ってほしい。頑張って!」という言葉だけを残し、去っていった。運転手は20代らしき若い男性だったという。
飲食店に戻ったOさんは感動のあまり涙をこらえることができなかった。
「タクシー運転手の給料は3000元そこそこなのに、100元ものお金を寄付してくれたことに、ものすごく感動してしまった」。
それと同時に、Oさんは自分の行動を振り返って反省したという。
「四川の地震の時にわずかしか募金をしなかった自分を恥ずかしく感じた。中国人の優しさに触れ、自分ももっと優しい人間になろうと改めて決意した」。
運転手から渡された100元は、在上海日本国総領事館か、上海で発行されている日本語総合情報誌の義援金受付窓口を通じて、寄付する予定だ。
「北京週報日本語版」2011年3月18日
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