◇「文明礼節」ある社会の原点◇
市場で野菜を売っている30歳代の夫婦は、小学校6年生の男の子がいるが、家族で旅行に行ったことはこれまでにないという。家族旅行など考えたこともなく、レストランで3人一緒に食事をすることもめったにない。夫は毎朝2時から卸売市場に仕入れに行き、妻は朝5時半から店に立つ。低学年のころは親が学校に連れて行ったが、6年生になった今は一人で学校に行き、「宿題などもほとんど面倒を見たことはない」と話していた。学校で何が一番好きか、と子供に聞いたら「スポーツ」だった。科目では「国語が得意」と自信ありげに答えた。「将来どのような人になりたいか」は、まだ決めていないが、休みなく活き活きと働く両親の生き方を見て、健全な大人に成長するだろうと思った。
数年前、この市場で「おばさん、すみませんがちょっと通してくれませんか」という非常に丁寧な言葉を聞いた。南京やこの周辺地域の方言が飛び交う中で、外国人が中国語を習うときの教科書に載っているような言葉だったので、私にもすぐに聞き取れた。振り返って声の方をみると、小学校低学年の男の子が中年の女性の後ろでじっと待っていた。通常だったら、子供は黙って女性を手で押しのけて間を通って行っただろう。男の子は学校で習った言葉を実生活で使ってみたのかもしれない。このような体験を積んで大人になった社会は、「文明礼節」のある社会になるだろうと思った。その原点が笑顔で働く女性が多いこの市場にあるように感じた。
◇西施や楊貴妃超える美人◇
今年5月、南京市内にある大手の電気器具店でテープレコーダーを探していたら、笑顔を浮かべてとても愛想のよい女性の店員が近づいてきた。5000元前後の商品がずらりと並んでいた。200元程度のテープレコーダーを見つけて、使い方などを聞いたら、要領よく笑顔でいろいろ説明してくれた。CDやDVDではなく、アナログな時代遅れのような磁気テープで再生するものだったが、私は迷わずその商品を購入した。あまりに親切だったのでその店員と一緒に写真まで撮ってしまった。笑顔はやはり価格には表れないサービスなのだと思った。
笑顔で親切に説明してくれた大型電気器具店の女性店員
日本のネットで「美しい有名女性ランキング」というアンケートを見たら、トップは女優の藤原紀香だった。2位吉永小百合、3位仲間由紀恵、4位小雪、5位黒木瞳と続いていた。(2009年オリコン・モニターリサーチ)
藤原紀香が美しい女性のトップになった理由について、「顔もスタイルも美しく健康的な美人」という声のほかに、「いつも笑顔なところや前向きな姿勢が素敵」という評価があった。笑顔はサービスの向上とともに女性自身を美しくする要素でもあるのだ。
私が買い物に行く市場の女性たちに、化粧をしている人はいない。身なりも着飾っているわけではない。働くことに生き甲斐を感じて、活き活きと笑顔で商いをしている。ここには、西施の顰(ひそみ)に倣(なら)う人など一人もいない。笑顔は、西施や楊貴妃以上の美人ばかりだ。中国全土の女性がこの市場の女性のように笑顔で生活したら、中国は間違いなく世界一の文化国家になる、と私は確信している。(写真はすべて筆者写す)
「北京週報日本語版」2011年12月2日 |