◇「慢走」に声を上げて笑う◇
レストランの女性服務員もおしなべて黙々と仕事をしている。注文の食事を運んだり、食べ終わった皿を下げたりする仕事ぶりは真面目だが、決まって笑顔はない。やはり怒ったような表情だったり、自分の任務を完遂するという責任感一杯の顔である。お客さんのところに注文の料理を運んできても表情をまったく変えず、しかも無言で置いていく。食べ終わったものを下げるときも何の言葉もない。日本の料理店やレストランだったら、必ず「お待たせいたしました。ご注文の○○を持って参りました。」とか「お下げしてもよろしいでしょうか。」などとお客さんに対して笑顔の会話がある。中国の場合は何の会話もない。時にはビール瓶にまだ少々残っているのに、友人と話に夢中になっていると、いつの間にか残っているはずのビール瓶が、すでに持ち去られていたことが何回もある。それ以降、ビール瓶は必ず見えるようにテーブルの中央あたりに置くことにしている。
ちょっとはにかんだ笑顔も素晴らしい
入口に立っている女性が両脇で「歓迎光臨」(いらっしゃいませ)と声を掛けるが、ただ口先だけで感情はまったくない。「ご光臨を歓迎」しているとはとても思えない。時には「歓~迎 阿~阿 光~臨」とあくびをしながらの「歓迎」もある。お客の第一印象が決まる重要な位置にいる服務員なのだから、その店で一番の美貌の女性が任にあたっているのだろうに、笑顔が加われば店の印象は一変するはずだ。
帰りがけに服務員は、「请慢走」(どうぞ、ゆっくりお帰りください=ありがとうございましたの意味)というから、文字通り手足をスローモーションのようにゆっくりとオーバーに動かして歩いた。ドアーのところにいた服務員は怪訝な顔をして見ていたから、「慢走man zou」(ゆっくり歩く)と強調して言いながらゆっくり歩いた。女性服務員はやっと気がついて声を出して笑った。その笑顔はそれまでのむっつりした表情にはない、とても優しく女性らしい美しさがあった。これほど笑顔が優しく美しいのに、なぜ表情を殺して仕事をしているのか不思議でならない。店の服務員全員が美しい笑顔で接待してくれたなら、料理の味がたとえ一流でなかったり、値段が少しぐらい高くとも千客万来は間違いないだろうといつも感じる。
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