◇賛同し多くの人が握手求める◇
私は講演の中で、このような内容の話をした。子供時代に絵本から受けた感動はその後の感受性や素養を豊かにする源になるはずだ。それが美術や芸術を理解する力になれば、豊かな文化国家を築く一助になると思う。
子供時代にたくさん絵本を読む必要があることは、会場の多くの人にも賛同してもらえたようだ。講演を終えたあと「とてもよかった」と握手を求めてくる人が何人もいた。私は日本語で話し、中国語で同時通訳が行われたが英語の通訳がなかった。このため、ドイツ・ベルリン芸術協会の先生からは「話の内容に興味があったが、日本語と中国語だけでは意味がよく分からなかったのは残念だった」と直接私に訴えてきた。
シンポジュームの会場となったホテル「紫金山荘」
棟方志功と友達だったという台南芸術大学の徐小虎教授からは、「棟方志功さんは、私には『鬼が描かせる』と言ってわよ」と言われた。徐教授からは夕食の時、「ご一緒してもよろしいでしょうか」と非常に丁寧な日本語で声を掛けられ、いろいろ話を伺うことができた。徐教授は南京市生まれで、日本軍の爆撃によりドイツに避難したあと、イギリス・オクスフォード大学で博士号を取得。日本の神奈川県・北鎌倉で棟方氏と知り合い、現在は台湾に住んでいるという。にこやかな笑顔で、ちょっと急いでいるような話し方が棟方志功そっくりだった。非常に懐かしくなり、思わず腕を組んだ記念写真はメールで送る約束をした。
講演会場では休憩時間に、中国と外国の画家や書家たちが、お互いの作品を掲載した著書や名刺を交換し合っていた。私もたまたま隣に座ったニュージーランドの博物館長が講演している写真を撮り、メールで送ることになった。このような国際的な人脈の広がりもこのシンポジューム開催の意義になるだろう。
◇「心の豊かさ」を求める一歩◇
シンポジューム主催者側の南京大学新聞傳播学院・韓叢耀教授は、中国国内外の専門家を集めて開いた意義について次のように話した。
「中国は現在、食糧や衣類、居住関係などが以前より改善され比較的豊かな生活になった。物質的には豊かになったが、これからは精神的な面の向上も必要であり、心の豊かさを求めていかなければならない。その一歩が今回のシンポジューム開催となるだろう。」
10月18日閉会した中国共産党の第17期中央委員会第6回総会で、「文化強国」実現のための決定が採択された。日本のメディアでは「報道やネットの規制、管理強化なども含まれる」と報道しているが、経済の発展とともに文化振興への方針を打ち出したことは、心の豊かさも追求しようとするもので、先進国家への道程として自然な要求だと思う。
日本の高度経済成長期(1955~1973年)以後、「物の豊かさ」と「心の豊かさ」を求める割合がそれぞれ40%と並んだのは1978年である。(内閣府の『国民生活に関する世論調査』から) 東京オリンピック開催(1964年)から14年後、大阪万博(1970年)からは8年後である。その後、「心の豊かさ」を求める人々が増え続け、2010年には「心の豊かさ」60.0%、「物の豊かさ」31.1%と精神的な豊かさを求める割合が圧倒的に多くなっている。北京オリンピック、上海万博が成功裏に終わり、中国が文化を振興させ、「心の豊かさ」を求めようとする方向に向かい始めたのは、「物」と「心」の両面が充実した国づくりを目指して動き始めたのだと思う。(写真はシンポジューム会場で筆者写す)
「北京週報日本語版」2011年11月4日
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