◇昼休みが1時間しかない◇
関西の大学に留学したRさん(女性)は、初めて授業のスケジュールを見た時「ええっ?どうしよう!」と困惑した。昼休みが1時間しかないのだ。Rさんは中国で小さいころから、昼寝の習慣を続けてきた。「正午に授業が終わって午後1時から授業が始まるのは、とんでもないことだ」と思った。しかし、日本人は昼の時間を大切にして、明るいうちに効率よく仕事や勉強に集中するのだろう、と考えて1年間、昼寝をせずに1時間の昼休みで頑張ってきた。
Rさんはまた、大学近くのラーメン屋さんでアルバイトをして、日本人のサービス業の厳しさと日本人の礼儀正しさに驚いた。Rさんは最初、店で皿洗いをやっていた。中国では自分の仕事をすればそれでよい、という考え方はまったくおかしくない。Rさんは皿洗いの仕事を一生懸命にやっていた。ところが店長に叱られてしまった。店の中では何をしていても、ちゃんと周りを見ていて、お客さんに向かって大きな声で元気に「いらっしゃいませ」「おおきに」(あるいは「ありがとうございました」)と言わなければならない、というのだ。
始めはなかなか大きな声を出すのが恥ずかしかったが、次第に慣れて気持ちを込めて「おおきに」「ありがとうございました」と言えるようになったという。お客さんにお冷やラーメンを運んで行くと、必ず「ありがとう」「おおきに」と言われる。レジで支払いを終わっても「ありがとう」という人が多かった。日本人はだれでも、相手に感謝をする気持ちが強くあるのだろうとRさんは日本人の心が少し分かったような気がした。
◇日本人の気遣いと自殺の矛盾◇
Cさん(女性)も、日本人の親切なサービスに驚いた。どの店に入っても店員はいつも全員が笑顔で「いらっしゃいませ」と大きな声で歓迎してくれる。店員は積極的に、商品の使い方や良さをていねいに説明してくれる。「店内を一周したら、何か買わないと申し訳ない気持ちになった」ほどだったという。
この親切さは店員だけでなく、他の日本人にも共通していることをCさんは体験した。日本に来てまもなく、その土地の地理がまったく分からなかった。どの電車に乗ればいいのかも分からず、近くを歩いていた人に尋ねた。するとその人は、相手が外国人だと分かったようで、30分ほど一緒に歩いて目的地を教えてくれた。Cさんは大変恐縮して「ご迷惑をおかけして、すみませんでした」とお礼を言った。その人は「私もちょうど、このあたりのスーパーに来るところでしたから」と笑って気軽に答えた。私が恐縮して感謝をする気持ちを、少しでも軽くしてやろうとする日本人の相手を思う心遣いだろう、とCさんは感じた。
日本人はこれほど相手の立場に立って考える気持ちが強いのに、Cさんには日本人を理解できない一面の出来事に出合った。東京のJR山手線・品川駅で自殺による人身事故があった。1時間後には運行が再開された。Cさんは救急隊員や駅員のてきぱきとした素早い行動に感心していたが、ふと疑問に思った。電車で人身事故が起きれば、電車の運行に大きな影響を及ぼすだけでなく、多くの人に迷惑がかかることだろう。他人に迷惑をかけないようにする思い遣りの心が日本人にはあるのに、なぜ、このような場所で自分の命を終えようとするのだろうか。しかも、日本人で1年間に自殺する人は、ここ12年間連続して3万人以上にもなっている。Cさんにはどうしても理解できない矛盾する日本人の一面だった。
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