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斎藤文男氏のブログ  
◇東日本大震災被災地現地ルポ㊦◇

 

◇問われる新聞の存在意義◇

新聞記者は自分で調べるのが仕事だ。発表されたり、情報提供されたものだけを書いていたのでは、新聞ではなく広報紙になってしまう。新聞がこのようなニュースだけで埋まっているとしたら、情報化社会のネット時代に取り残されるのは目に見えている。新聞がネットに押されてどんどん衰退しているのは、新聞記者の質に問題があるのではないかと思う。

現存する日本の新聞で最も古い歴史のある毎日新聞は、来年創刊140周年を迎える。この間、新しいメディアの出現によって新聞の危機が叫ばれたのは現在のネット時代だけではない。1925年、ラジオの出現では速報性に負けると危機が叫ばれた。しかし、記事の解説や分析力、正確で独自なニュースネタの競争により、新聞の信頼を持続した。1953年、テレビの出現では紙面のビジュアル化や調査報道などの濃密な報道内容で、やはりテレビより新聞の信頼度を高めてきた。

これらの危機を乗り越えることができたのは、優れた記者の取材力や筆力による記事が、ラジオ、テレビの速報性や映像よりも読者の信頼を勝ち得たからである。現在のネット時代を迎え、新聞が衰退しているのは、ネット記者より新聞記者の質が劣っていることが、その一因になっているのだと思う。

利害や損得、労働条件やあらゆる危険を乗り越えて、報道すべき価値ある対象には果敢に取材をして原稿にする。それを編集、印刷して読者に届ける。一線記者の取材から編集、印刷、発送、配達まで、新聞人全体の心意気や魂が紙面に凝縮されている。それが、読者との信頼関係を築く源になっていた。ネット記者の質が向上したとしても、ネットでは細切れの断片的なニュースが、ほとんど加工されずにそのまま提供されているだけだ。そこには情報に対する信頼も信用も、ときには真実性も疑わるようなものが玉石混交している。このような情報だけで成立している社会は健全なものではない。従来の新聞の存在意義が今改めて問われている。

◇記者の責任感と自己認識◇

福島第一原発が爆発した直後、一部のメディアは県内の任地から避難した。停電になり電話もパソコンも使えず、連絡をとることや原稿を送ることもできなかったので、会社の指示や送稿するため止むを得なかった“退避”だったのかもしれない。数日後それぞれの任地に戻ったが、現地の市民からは、「メディアは市民を置いて逃げてしまった」と批判されたという。

1986年のチュルノブイル原発事故では、毎日新聞社のモスクワ支局長が支局員を集めて、「私が取材に行く。私には子供がいないから」と言って、放射性物質に汚染された地域に取材に行った。この先輩記者は6年後、52歳で他界した。もちろん、危険は承知していたが、発表だけを信じてニュースにするのではなく、どんな場合でも現場に行き取材する必要性を、後輩に示したかったのだと思う。

“社会の木鐸”や“無冠の帝王”“第3の権力”などといわれた時代の新聞は、記者の強い責任感と自己認識によって成り立っていた。

8月に入ってから、北京週報や日本のNHK、共同通信のニュースで福島佳代ちゃんが、被災した東北地方の小中学生90人と一緒に海南島に行ったことを知った。NHKのニュースでは、しっかりした声で、「中国をはじめ世界中の方々から温かいご支援を受け、たくさんのパワーをいただきました。」と「感謝の言葉を」述べている声も聞くことができた。海南島は1週間の滞在のようだったが、帰国後は改めて温家宝総理にお礼の手紙を書くとともに、多くのマスメディアを通じて、海南島での楽しい思い出を被災者や日本人の多くの人に知らせてほしい。それによって温家宝総理の日本への思い遣りも活かされ、日本と中国の人たちの相互理解や温かな交流が深まれば、佳代ちゃんが望んでいた「日中の架け橋」の役目を果たすことになると思う。(撮影者氏名ない写真は筆者撮影)

「北京週報日本語版」2011年8月19日

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