◇何か不自然な周囲の反応◇
郡山市教育委員会にも電話で伺った。佳代ちゃんと温総理との手紙の交流については、知っているようだが、「詳しいものが、後ほど電話を入れます」というので電話を待った。夕方、市教育委員会から電話が入った。「詳しく知っている」という人も「学校長の話のとおりで、保護者がそっとしておいてほしい、とのことでした」と言うだけだった。
福島県郡山市立金透小学六年生の福島佳代さん(左)(季春鵬撮影)
「中国の温総理から返信をもらったということは、本人の佳代ちゃんをはじめ、学校や市教育委員会などにとっても喜ばしいことだと思います。本人の喜びの様子や級友、担任の先生、学校関係者などの反応が報道されれば、温総理自身や日本と中国との友好交流にもよい関係をもたらすことになると思います」と、電話で訴えた。
しかし、返答は「保護者が騒がれたくない、とのことなので、ご理解願いたい」と繰り返すだけだった。
在籍している児童が、明るく喜ばしいニュースの当事者となった取材は、現役記者時代たくさんあった。しかし、このように何か不自然な反応を受けたケースは一度もなかった。相手が希望しないのであればそれ以上話を聞くことはできなかった。
◇「新聞記事は足で書くんだ!」◇
地元の新聞記者はなぜ取材をしなかったのだろうか。電話で直接記者に聞いてみた。
私(以下Q):中国の温家宝総理が郡山市金透小学校の児童に返信を書いた記事をごぞんじでしょうか。
地元記者A(以下A):えっ?いやあ、発表がなかったので、知りません。
Q:5月19日の人民日報に掲載されたことは、日本の新聞のニュースにもなっていますが……。
A:そのような情報がなかったので、分かりません。そうでしょう。
Q:温家宝総理が郡山の小学生に返信を書いた記事は、他の新聞やテレビでも報道されなかったのでしょうか。
A:それはよその社のことなので、わかりません。それぞれの会社に聞いてください。
◇
Q:郡山市金透小学校児童が、中国の温家宝総理から返信をもらったというニュースはご存知でしょうか。
地元記者B(以下B):そういう発表はありませんでした。
Q:発表はなかったかもしれませんが、北京発の共同電で地元の新聞にも載っていましたが。
B:あっ、そうでした。私は見てなかったので知りませんでした。
◇
2人の記者とも「発表がないので分からない」「そのような情報も知らない」とのことだった。つまり発表されたもの以外は記事にできないということなのだろうか。常に自身のアンテナを高く立てて自らニュースを発掘し、それを取材して独自のニュースにしようとの意欲は、電話で聞いた限りはまったく感じられなかった。私の記者時代、デスクや先輩に「発表がなかったから知らなかった」などと言い訳したら、物凄い罵声のもとに一括されただろう。
「なにっ?!発表がない!!発表モンなんか広報紙に任せておけばいいんだ。そんなもん聞くより、自分の足で歩いて街ネタの一つでも拾ってこい。ばかやろう!」「新聞記事は足で書くんだ!」机を2、3回叩かれてどやされることは確実だった。もたもたしていたら、机ではなくこちらの頭を叩かれたかもしれない。
|