◇ゴーストタウンに自警団◇
通行止め地点からUターンして太平洋岸を南下した。広野町は福島第一原発から20~25キロ離れているが、ここは「緊急時避難準備区域」に指定されていた。「原発の今後の事態によっては緊急に避難が必要になるかもしれないので、その準備をしてください」という地域である。この区域の保育所、幼稚園、小中学校、高校は事故後、休園、休校となっている。住民全員がただちに避難する必要はないものの、緊急時に備えて準備をせよ、というので、ほとんどの住民が避難して、町の中はめったに人が通らない「ゴーストタウン」になっていた。
地元の人たちに親しまれている広野町の「北迫地蔵」(右側の人は地元自警団の班長。左の車は地元住民によるパトロール中の車)
大きなお地蔵さんがあるところで、犬を連れて歩いていた地元の人に出会った。自宅を出て避難しているが、留守宅が心配なので時折、犬と一緒に周辺を警戒しながら見回っているのだった。話によると、最近、周辺で空き巣のドロボーが多くなり、「自警団」を結成してパトロールをしているという。
「警察が巡回してくれているが、我々住民もできるだけのことをやることにした」。この5月から、1班2人で組になり、4班8人が4区域に分かれて、車で24時間パトロールしている。出会った地元の人はこのパトロールの班長だと話してくれた。「パトロールをしているだけでも防犯対策になる」という。班長によると、ドロボーは若い人が多いと嘆いていた。
◇避難の留守宅に空き巣が横行◇
新聞報道によると、班長の嘆きを裏付けるように3週間前、21歳の若者2人と17歳から19歳の少年3人の計5人が空き巣の窃盗容疑で警察に逮捕された。5人は避難して留守になっている広野町の家を狙って、現金やビデオコーダーなど電気製品を盗みリサイクル店に売っていた。
周辺にある留守になった家にかぎはかかってはいるが、町の中から人通りがなくなり、空き巣に入ろうと思えば簡単に入れそうだった。
震災直後、被災地では暴動もなく節度ある冷静な被災者の態度が、世界中から賞賛されたが、やはり中には不心得者がいることを知らされ、恥ずかしく情けなく思った。
班長と出会ったところにあったお地蔵さんは、2メートル近くの台座に乗った高さ4メートルほどもある大きなものだった。悪天候や冷害による天明の大飢饉(1782~1788年)により、多くの人が餓死したりして犠牲になった人を供養した「北迫(きたば)地蔵」で、地元の人には「地蔵さま」として親しまれている。今回の地震で首の部分から道路に落ちて鼻が欠けてしまったが、地元の人がみんなで協力して元に戻したという。
班長と話しているとき、自警団パトロールの車が回ってきた。「ご苦労さま」と声を掛けると、車の中にいた2人も頷いてすぐに通り過ぎて行った。
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