斎藤文男（南京大学日本語学部専家）

２０１２年７月、日中国交正常化４０周年を迎える。国交が回復したといっても４０年間の歴史にはさまざまな出来事があった。しかしこの４年間、温家宝総理は一貫して、日本への温かな思い遣りあるメッセージを送り続けているように思える。今回の東日本大震災では、「災いを転じて福となる」よう、日本に対してきめ細かな思い遣り外交を示した。避難生活をしている女性の求めに応じて、激励の絵やメッセージを書いたり、被災した小学生からの手紙に返信を書いたのはその一端である。しかし、温総理の思い遣りに対して、日本の報道メディアや日本政府は、あまり反応を示していないのはなぜなのだろうか。政府が震災対応に追われて気がつかないのなら、報道メディアがその役割を発揮して“社会の木鐸”として警鐘を鳴らしてほしい。

温家宝総理が日本の震災地の小学生に返書　（章京撮影）

◇小学６年生からの手紙に返信◇

　温家宝総理が日本の小学６年生の女子児童からの手紙に返信を書いたことは、６月１９日の「人民日報」が１面と３面で大きく扱い報道した。

　記事は、「福島県郡山市立金透小学校６年生の福島佳代ちゃんが１８日、温総理からの返信を受け取った。」という書き出しになっている。１カ月前、温総理が福島県の被災地を訪れた際、佳代ちゃんと妹は温総理と会って感激したことや、中国への憧れをつづった手紙と絵と写真を温総理に送り、その返信が届いた、という内容だ。

　返信は１１日付で、「福島佳代ちゃんへ　お手紙と絵、写真を受け取りました。とても嬉しく思います。私は被災地の子供たちが休みを中国で過ごすよう招待をしています。あなたは中国が好きなようですから、中国に来られることを希望します。みなさんお元気でお過ごしください。　温家宝」と毛筆で書かれていた。

　この日の「人民日報」の記事によると、佳代ちゃん一家はたくさんの人たちと一緒に新幹線の福島駅西口で温総理がくるのを待っていた。温総理が到着すると期せずして歓声が上がった。温総理は一人ひとりと握手をした。佳代ちゃんとも握手をしたが、佳代ちゃんは温総理が親しみを込めて妹の小さなほっぺをなでたことを、永久に忘れることができない記憶となった。佳代ちゃんはこのとき見たこと感じたことのありのままを温総理への手紙に書いた。記事では手紙の全文が掲載されているが、要旨は次のような内容である。

　「温家宝総理様　私は福島県郡山市金透小学６年の福島佳代と申します。あの日私は両親と妹とともに福島駅の西口で待っていました。温総理が駅に到着したあと、多くの人たちと握手をして、私たち子供たちの所にもやって来ました。そして意外にも私と握手をしてくれました。温総理の手は大変暖かく、とても親しみがあり私は感激し、やっと覚えた“ホアンイン”という中国語の言葉をすっかり忘れてしまいました。またこの時、私の妹は温総理にほっぺをなでてもらいとても喜んでいました。この時のことは生涯忘れることができない瞬間でした。

私は中国が大変好きです。とくに漢字、パンダ、音楽が好きです。これからは中国語を勉強して、中国の小学生と交流できたらなんと素晴らしいことでしょう。将来、私は北京大学に留学して、日中友好の懸け橋となる仕事をしたいと思っています。今回は幸運にも私の妹も温総理にお会いできて感激しています。妹は感謝の気持ちを込めて絵を描きました。手紙と一緒に送りますので、どうぞお受け取りください。

　温総理のお仕事が順調にいくことを心からお祈りし、日中友好が長く続くことを願っています。

日本福島県郡山市立金透小学６年　福島佳代　２０１１年５月２８日

追伸：私と妹の写真を同封しました。」