(~ウェンナン先生行状記~)
南京大学日本語学部専家・斎藤文男
ここ半年の間に、日本語スピーチコンテストや日本語歌謡大会など4つの行事にかかわった。この中で、参加した学生がスピーチ内容を途中で失念したり、自己紹介用のUSBを忘れたり、あるいは、事前に練習した歌の成果を思うように出せなかったりするなど、学生の失敗をいくつか目の当たりにした。失敗は大きな心の傷になったかもしれないが、“失敗は成功の母”でもある。世間では、プロといわれる人たちの世界でも失敗はある。文豪・夏目漱石でも英国留学中に英語が通用せず悩んだことがある。今年6月に開かれたサッカーのワールドカップ南アフリカ大会で誤審が相次いだり、同月に行われたアメリカの野球大リーグでも“世紀の誤審”といわれる失態も出ている。人間は誰でも必ず失敗をするものである。1度や2度の失敗に挫けず、失敗から何を学ぶか。それをどのように乗り越えて、後々の成功に結び付けるか。そのことが“失敗から学ぶ心”だと思う。
◇スピーチ大会で失念◇
今年5月、南京市内の大学生27人が参加し、中国傳媒大学南広学院で行われた日本語スピーチコンテストで、ある女子学生は途中でスピーチ内容を失念してしまった。「私は今、とても緊張しています。」と言って、あとが続かなくなった。私はこのとき審査員だった。彼女のそれまでのスピーチは、悪くなかった。学生はかなり緊張していたのだろう。続きを思い出そうと必死になっていた。しかし、焦れば焦るほど思い出すことができなかった。「すみません」と学生は、途中で話が止まってしまったことを詫びた。会場からは激励の拍手が起きた。10数秒間後、学生は頭を下げて演壇を下りてしまった。
着物姿で参加した女子学生
彼女は所属大学を代表して大会に臨んだことでもあり、途中での棄権はかなりの衝撃に違いない。応援してくれた周囲の人たちに対しても、申し訳ないと思ったことだろう。審査は、スピーチの内容や発表態度、日本語の発音や言葉使いなど10点満点で行われ、私は途中までに4.6点を付けていた。途中で話が詰まっても、思い出して話を続ければ私の採点では8.0以上にはなっていた。
この失敗を逆手にとって、このようにしたらどうだったろうか、と考えた。少しの沈黙のあと、大仰に深呼吸をして、「大変長らくお待たせいたしました。ただいま思い出しました。」と会場を笑わせて、話を続ければ9点以上の高得点になったと思う。
|