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評論  
米国債上限をめぐる争い 昔と今

 

理想と現実

「米国は債務の中に生まれた」。米国の学者ローレンス・マルキン氏はその著「国債」の中でこう評している。独立戦争中に大陸会議が発行した戦争公債を源とする米国債の歴史は連邦政府よりずっと長く、このため連邦政府は1789年に正式に発足した日から7500万ドルの債務を背負うことになった。米国の建国後、第3代大統領トーマス・ジェファーソン派が主張した「均衡予算」の原則が一貫して米国の正統的財政理論の最高の地位を占めてきた。財政機能が1929~33年の大恐慌によって、「公共権力」の維持費から徐々に国家の最も重要なマクロ経済調整レバーの1つへと変わり、その財政政策もそれに応じて徐々に均衡予算から赤字財政を意識的に運用する方向へと転換、長期化したが、均衡予算や減税といった主張が終始、米社会の道徳的高地を占めるようになり、それに応じて非常にたやすく政治闘争の手段となった。大恐慌に遭遇している間、行政機関は現実に対処し、財政政策手段を運用して経済を刺激しなければならず、そのため財政状況の悪化や増税といった代価を払うのを惜しまなかったことから、矛盾が当然ながら生じた。今回の米国債上限をめぐる争いが時間を無駄に費やし、ことのほか激しかった原因は、まさにここにある。

2008年に起きたサブプライムローンによる危機で、米国の通貨政策はほぼ「ゼロ金利の落とし穴」に陥った。米国の危機対応策ではほとんど財政政策が唯一の選択となり、しかも減税と公共投資という2大財政刺激手段では、公共投資による経済刺激効果がより強くなった。だが、財政は支出超過の状態がすでに数十年も続き、天文学的数字の公債が蓄積した国では、大規模な危機対応に向けた財政政策が財政の状況を急激に悪化させるのは避けられない。一方、英国に属する北米植民地住民の間に生まれた米国自身の納税拒否闘争が、長年にわたって「小さな政府」を正統な主流のイデオロギーと見なし、また減税を強く強調していたことから、オバマ大統領の危機対応政策は減税への取り組み方が弱いとして米公民を失望させた。

09年4月15日(米国の個人所得税申告の締切日)、ワシントンやシカゴ、ボストンなど都市で「納税拒否」をスローガンに大規模な「ティーパーティー」集会が組織され、参加者はティーパックをホワイトハウスに向けて放り投げた。英国の統治者による税政策に不満を抱いた北米植民地の住民にまねたもので、この2年近くにわたり米国の政界をかく乱してきた「茶党」が時運に乗って誕生した。また、9年に及ぶ「孤星共和国」独立建国の歴史を持つテキサス州では同日、リック・ペリー知事が州民挙げての「納税拒否」運動を巻き起こし、自ら州都オースティンの州庁舎内で反オバマ政策集会を開いた。参加者からは「連邦離脱、テキサス独立」の声が絶えず響きわたり、ペリー氏自身もおおっぴらに連邦政府の過酷な税徴収と膨大な支出、膨らみ続ける債務が米国人の首を締め付けていると非難。州民は極度に連邦政府の政策に嫌気がさして連邦離脱を考えるかも知れず、当時テキサスが連邦に加盟した前提には退出の自由があるとも公言している。

中間選挙で共和党は議会で多数を占め、この機を借りて自らの主張を押し通そうとしている。米国債の14兆ドル近い法定上限の期限を盾に民主党オバマ政権を狙い撃ちするのは、実に当然のことだ。米国の財政が長年にわたり一貫して「借り替え」という循環に依存してきたことから、多くの人が米国の財政は本質的にピラミッド型融資の「巨大なトリック」に過ぎないと非難している。議会が国債上限の引き上げを拒否する、という膠着した状態が仮に8月2日の期限までに打開されていなかったとすれば、2つの結果しかなかった。連邦政府がドアを閉めて茶番を再演するか、政権が反故にしてデフォルトをするか、だ。

現行の国際通貨システムは本質的にドル本位制であり、ドル債券市場も世界最大の債券市場であり、国際金融市場の基準利率などの指標に対し基礎的役割を発揮している。国債のデフォルトがいったん現実となれば、国際金融市場は壊滅的な打撃を受け、ドル本位制の国際通貨システムも根本から覆され、米国の経済自体もそれに伴って大きな痛手を被ることになる。さらに、国内に極めて大きな政治的動揺が引き起こされる恐れもある。米国債の最大の保有者はやはり国内の公民であり、海外の債権者ではないからだ。まさにこのように、全世界に沸き立った世論から、4日と5日に世界ほとんどすべての主要市場を巻き込んだ株価下落から、数カ月続いた米国債の上限をめぐる争いがいかに世界市場の参加者の米国、米経済に対する信頼を損ねたかが見て取れる。

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