沈銘輝(中国社会科学院アジア太平洋研究所副研究員)
もうすぐ21周年を迎えるアジア太平洋経済協力(APEC)は、実り多い成果を上げてきたと同時に、一連の課題にも直面している。APECの今後どう発展していくかで、21の参加メンバーにもたらす利益も異なってくるため、今後の方向性が広く注目されている。近ごろ横浜で行われた第18回APEC非公式首脳会議で、参加した各国・地域の首脳は、地域経済一体化の推進を加速し、確実な行動でアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の成立を推進するとの決意を示した。
第18回アジア太平洋経済協力会議(APEC)非公式首脳会議が13日と14日に横浜で行われた。写真は会場のヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテル
アジア太平洋自由貿易圏という言い方自体は特に新鮮なものではない。実際、最初に提起されたのは2004年のことだ。アジア太平洋自由貿易圏についての議題は何度もAPECで討論されたが、各参加メンバーの意見が一致しなかったため、長年にわたってほとんど何の進展も見られなかった。2009年以降、米国の参加と「環太平洋連携協定(TPP)」の推進に伴って、長年日の目を見なかったアジア太平洋自由貿易圏構想がようやく議事日程に乗るようになった。アジア太平洋自由貿易圏は多くの利益をもたらすだろうが、その直面する困難も非常に明らかである。まず、APECはその内部に参加メンバー間の経済発展レベル格差が大きいという問題を抱えている。次に、FTAAPを採用した場合、それはAPECが20年間運営の基本原則としてきた「開かれた地域協力」と「協調的・自主的な行動」が拘束性のあるFTAに取って替わられ、自主的で協議による合意を重んじ拘束性のない「APEC方式」が放棄されることを意味する。第三に、発展途上国メンバーと先進国メンバーの分裂を招く可能性がある。第四に、FTAAPは次のような理由で原動力に欠けている。(1)東アジア経済体にはいわゆるアジア・太平洋地域としての同一感や帰属感がない。(2)中国が含まれているFTAを米国の国会が可決するのは難しい。そしてFTAAPも米国がWTO交渉の重要目標である農産品開放を達成することを保証できない。(3)日本の農産品・サービス業開放への取り組みが難しい。
米国が現在積極的にTPPを推進しているのは、それを2011年のAPEC米国サミット前のAPEC改革案の候補にしたいからだ。今後2年でAPECの貿易投資自由化が推進できなければ、米国はおそらくTPPにAPEC参加国を取り込み、TPPをそのままFTAAPへと変えていってしまうだろう。しかしTPPはサービスや投資面での開放要求や、労働者・環境保全についての基準が高く、さらに市場参入について統一された新メンバー受入方式がまとまっていないため、単純な原産地ルールでは「ただ乗り」を防げないのではないかなど問題が多く、TPPにアジア太平洋自由貿易圏への過渡的役割が務まるかどうかは疑わしい。
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