――農村部の貧困支援では実際的な効果を上げたものの、都市部で逆に貧困者が増えつつある。政府にとっては極めて取り組みにくい難題だ。
馮建華
このところ、都市部での貧困者の増加が強い関心を集めている。先ごろ開かれたシンポジウムで発表された数十名の経済学者が異なる地域で行った調査報告で、この数年来、都市部の貧困状況は経済の高度成長で緩和されるどころか、逆にかなり深刻化していることが分かった。専門家によると、2004年の都市部の貧困者発生率は6~8%で、農村部の同期の2.6%をはるかに上回っている。
「農村部の貧困者に比べ、都市部では土地という最低保障ラインがないため、貧困は絶対的な赤貧状態にある。政策面から一層の保障措置が講じられなければ、彼らは最貧困層になるだろう」。都市部の貧困問題に関心を寄せる遼寧省の全国人民代表大会(全人代)の趙喜忠代表は強い懸念を示した。
趙氏と同様、湖南省の全国政治協商会議(政協)の郭晋雲委員も都市部貧困者の生活実態を調査してきた。地元政府に提出した調査報告で郭委員は、貧困層は拡大しつつある指摘した上で、「貧民窟」が生まれないよう注視すべきだ呼び掛けた。
さらに郭委員は「都市部の貧困者を早急に支援しなければ、彼らが集中する地区は治安が悪化し、商業は低迷し、集団暴力や犯罪のまん延といった社会問題が起きる」と憂慮する。
世代から世代へと
湖南省湘潭市の魯班殿団地。繁華街に隣接する旧市街地だが、地元では「貧民窟」と呼ばれている。居住者は大半が老人や一時帰休者などの低所得層。退職金を支給されている人もいるが、それでも基本的生活を維持するのは難しいのが実情だ。貧困家庭の大多数は居住面積が狭く、三世代が同居している。彼らを対象にした調査によると、慢性病あるいは大病を患う家族が1人以上いると答えたのは65%、身体障害者を抱えるは34%、就職できない、診察を受けられない、子どもの学費が高いために豊かになれない、と考えている人が72%もいた。
さらに問題なのは、貧困が原因で早くに退学した多くの若者たちが、収入を得る能力や機会に余り恵まれていないがために、貧困にもがき苦しむしかなく、根本的に一家を救済する重責を担えないでいることだ。こうしたことから、一世代の貧困はさらに深刻さを増して次世代へと引き継がれることになる。こうした都市部の貧困状況に社会学者は強く懸念している。
一方、富裕層の間にも同様の現象が起きている。調査によると、父母の社会的地位が高ければそれだけ、有する権力が大きければそれだけ、社会関係が多ければそれだけ、子女はいとも簡単に高い社会的地位や収入が得られるのだ。
どんな社会であっても貧富の格差は避けられないものだが、社会が公平であれば低階層の人々に向上する方法を提供することができ、貧困者は自ら努力することで運命を変えることができる。政府の刊行物『瞭望』は「貧困と富裕が一線の画された2つの層となり、それが長期にわたって続いていけば、社会の潜在的リスクは増大する」と論評している。
「制度による貧困」に警戒
都市部の貧困が深刻な問題となったのは、この数年のことだ。市場経済体制の改革が進むに伴い、従来の計画経済下での“親方五星紅旗”がほぼ打破されたため、国有企業の再編・統廃合の過程で大量の失業者が生まれたことが主因だ。
あるデータによると、1993年の失業者数は300万人。1997年には1760万~1820万人にまで増加したが、うち1218万人が国有企業の一時帰休者だった。現在でも、約890万人が職場復帰を待っている。こうした状況が最も深刻なのが東北地方の重工業基地だ。
だが、経済体制改革は急速に進んだものの、社会保障制度の整備は相対的に遅れている。現在の社会保障体制は、保障金の基数が低いために、真の意味での生活保障の役割を果たすのは難しく、しかも保障の範囲が全ての層を網羅しておらず、都市部の一部正式労働者に限定されている。政府は保障範囲の拡大に努めているところだが、真に健全・完備化するまでにはまだ長い時間が必要だ。
今年2月初めにある調査会社が発表した研究報告によると、2005年に都市・農村部住民の間に貧困者が出た主因は教育費だった。「学校に通う子どもがいる」が原因だと答えた人は40~50%。とくに農村部では教育費が家庭支出のトップを占めている。
報告ではさらに、医療費が第2の負担となっていることが判明した。「家に病人がいる」が貧しくなった原因だと答えた人は約25%。また遼寧省民政庁の統計によると、「診察を受けられない」が都市部貧困層にとって最大の問題であり、約30%が病気で家庭が経済的に苦しくなったと答えている。
内蒙古自治区で幸せな生活を送っていた何東さん一家。医療保障が十分に受けられなかったために、何さんも経済的苦境に陥ってしまった。売れる物は何でも現金に換えたという。80年代に生産された一台の古いカラーテレビがあった。何さん「これが唯一、楽しめる道具だ」と話す。
何さんは特例ではない。今では、彼のようにより充実した社会保障を受けられないが故に一夜にして赤貧に陥る家庭は、国内では珍しくない。
総合開発研究院(深セン)国情研究センターの丁四保主任は昨年下半期、東北地方の資源の枯渇した5都市の貧困層を対象に調査を実施。丁主任は「国有企業あるいは集団企業を去った大半の労働者は、再就職、失業保険や養老保険の取得、就業訓練への参加、医療や教育サービスの享受などでかなり排斥されている。貧困と病気に加え、このことが彼らの将来を一層憂慮させている」と指摘する。
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