欧州統合プロセスに再び難題
ここ数年来、欧州統合プロセスは紆余曲折した道を歩んできた。2005年夏、フランスとオランダが『EU憲法条約』を否決したあと、2008年にアイルランドは国民投票によってこの条約の改革版である『リスボン条約』を否決。そしてヨーロッパ指導者が『リスボン条約』のために活路を探し求めている時、金融危機が発生した。欧州統合プロセスに対する金融危機の影響はとても興味深い問題である。積極的な面では、金融危機対応が統合を推進する新しい動力になるし、消極的な面では、金融危機が内部の対立を激化させ、新旧欧州が再度分裂してしまう。
積極的な面から見れば、金融危機の中で欧州統合の構築が果たす役割は肯定するに値するが、ヨーロッパは引き続き統合推進を通じて今後の挑戦に対応する必要もある。ユーロは欧州統合プロセスの里程標としての成果をあげ、今回の危機の中でも自らの価値を証明した。1990年代初期に発生した欧州通貨危機においては、各国が通貨政策で協調できなかったため、最終的に当時の欧州為替レートメカニズムの解体を招いた。だが、今回の金融危機では、ユーロ圏諸国は共通の通貨と通貨政策があるため、諸国間の為替レートの激動を免れ、内部の統一的な大市場を安定させた。昨年10月に発生した金融危機がヨーロッパでますます白熱化してきた時、ほかでもなくユーロ圏サミットが発表した市場救済措置はヨーロッパの主要株式市場の連続下落局面を転換させた。ユーロは危機において価値を現わし、その吸引力を増し、アイスランド、イギリスと一部の中・東欧諸国が程度の差こそあれ、ユーロ圏に仲間入りする意欲を示した。このほか、EUは共通の財政政策をとっていないにもかかわらず、昨年末に各国が提携して打ち出した2000億ユーロの経済刺激策も国民の自信向上に役立った。国際面では、欧州諸国はまた昨年11月15日にワシントン金融サミットの開催を共同で促して達成し、国際金融システムの改革を積極的に推進している。
これらは、ヨーロッパが統合を引き続き推進することを必要としており、集結力や行動力のある1つのEUが今後の挑戦への対応に役立つことを示すものである。しかし、金融危機の勃発は客観的には消極的な影響を及ぼし、統合プロセスのテンポを妨げた。
ここ数年、欧州統合の先行きを悩ませる2つの深層的な問題がある。一つは、連続して拡大した後のEUが大きすぎて分散しすぎており、凝集力が低下することだ。二つ目は、民衆と政治エリートの認識に大きな開きがあることだ。一番目の面から見ると、金融危機は新旧欧州に鋭い対立を招いた。チェコのトポラーネク首相は先般、一部の欧州国指導者の保護主義的な言論が各加盟国の保護主義を台頭させ、チェコの『リスボン条約』批准を妨げることになる、と警告した。一部の中・東欧国がユーロ圏の加盟を切望していることについては、バローゾ欧州委員会委員長は、ユーロ圏は安定した運営を保障すべきで、資格の認定基準を下げることはない、と表明した。
二番目の面については、ヨーロッパが統合を必要としているかどうかが1つの問題であり、統合を推し進められるかどうかは別の問題である。たとえ金融危機に直面しても、欧洲は統合プロセスの推進を通じてエネルギー安全、気候変動などの議題を解決していくことも必要である。しかし、統合プロセスが順調に行われるかどうかは民衆の態度にかかっている。2005年のフランス、オランダの公民投票にしても、2008年のアイルランドの公民投票にしても、民衆が否決票を投じる主な原因は統合への反対ではなく、政府への不満の表明である。今回の金融危機は失業者の急増をもたらし、政府の支持率も下落し、フランスでは政府の危機対応力欠如に抗議する大規模なストライキが行われた。このような背景の下で、政府は統合を支持するよう民衆を説得することがさらに難しくなる。
上述の二つの面から、金融危機はヨーロッパにとっての統合の重要性を示してはいるが、客観的にはEUの固有の対立を激化させ、今後統合プロセスの推進が更に難しくなることがわかる。
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