時永明
(中国国際問題研究所研究員)
「恒久の平和、共同の繁栄、調和のとれた世界を構築するために努力しよう」という中国の指導者が世界に向けた呼びかけは、国際社会から幅広い関心を集めている。それは中国の対外政策の真髄を表し、人類社会の発展規律を明らかにしているだけでなく、同時に国際社会はいかに現実的な矛盾を解決して将来の国際秩序を確立するかという模索と思考をも反映している。
理性、公正、民主、包容と秩序ある世界
中国が提唱した「調和のとれた世界」とは、恒久の平和と共通の繁栄を基本的な特徴にしたものだ。平和と繁栄の二者は互いに条件となる特性を有している。恒久の平和があってこそ、繁栄を促進することができるのであり、普遍的な繁栄があってこそ、平和を恒久的なものにすることができるのである。
調和のとれた世界の具体像としては、少なくとも理性、公正、民主、包容と秩序のある世界だと言うべきだろう。従って、調和のとれた世界という思考の核心をなすのは、世界の政治経済秩序がより公正で合理的な方向へと発展するよう推進していかねばならない、ということになる。
「調和のとれた世界」はその思想として、国際秩序を構築する過程において(1)世界各国が共同で国際制度の確立に参与できるようにするため、国際政治の民主化を推進すべきである(2)国際秩序を法制化し、各国が公平な原則に基づいて共同で制定した協定や規定を順守すべきである(3)国際社会があまねく関心を持つ安全や安定、開発、疾病、社会問題などに関しては、多国間協議や協力あるいは国際機関を活用すべきである(4)各国は仲睦まじく付き合い、対話と協議の方法をもって意見の食い違いを解決すべきである(5)経済面では平等と互恵、双方の利益という原則を順守すべきであり、同時に先進諸国は発展途上国の開発を支援する責任と義務を有する(6)異なる文化の差の合理性を認識し、互いに尊重し、互いに包容し、互いに参考にする方法を講じてこうした差に対処すべきである――としている。
上述した6点では調和のとれた世界に内在する豊かな内的を概括できないかもしれないが、すでに政治や経済、社会、文化などの各方面に言及している。
相互依存と共生の国家関係
こうした調和のとれた世界は人類共同の夢と追求だと言える。だが、現実には複雑な矛盾と衝突が広範囲に存在しているため、人々はこの夢が実現できるかどうか、どうしたらこの夢が実現できるかに対してはほとんど疑問を抱き、戸惑いを感じている。
西側の伝統的な現実主義理論に基づけば、国際社会の行為主体は民族国家であり、国家行為の目的は民族の私利であるため、国際社会は無政府状態となる。また、世界の安定は覇権による抑制されるか、あるいは大国間の相互けん制に依存するしかないため、大国間の力の変化が伝統的な勢力の均衡した安定を破壊することがある。この理論の本質は、国際社会というのは調和を図ることのできない衝突体だということだ。
「調和のとれた世界」は理念として、まず世界を一つの自在な主体と見なし、民族国家はこの統一体の有機的な一部であり、それらの間には普遍的な相互依存と共生の関係が存在する、としている。従って、人類は協力の方法を通じて互いの矛盾を解決し、ともに発展することができるのだ。しかも、国と国が仲睦まじく付き合うことは、共同の発展を実現する基礎、前提なのである。
中国がこの理念を提起したのは、中国の伝統的文化と関係があるだけでなく、より重要なのは、中国の現実的な立場と世界に対する認識と関係があり、また第2次世界大戦以降、とりわけ冷戦後に人類が自らを深く認識するようになったことと密接な関係があることだ。
「調和」という言葉を用いて人類社会の生存状態を描こうとすれば、中国の伝統的文化の特徴が備わるのは確かだ。その文化においては、人類の生態を認識する際の整体性が強調されている。つまり、人類社会および人と自然は一つの整体だとする考えだ。従って、人と人は仲睦まじく付き合わなければならず、人と自然は調和がとれていなければならない。
だが、人類社会の内在的な発展規律を系統的かつ理論的に認識するにあたって、近代の中国人は思考的に産業革命以降の欧州文化の影響をより多く受けており、なかでもその主体となすのはマルクス主義の哲学思想だった。マルクス主義の理論は当時の欧州の空想的社会主義理論にある調和のとれた社会に関する思想を継承し、人類は科学的な発展を経た後に、必ず調和のとれた世界へと向かうという内在的な規律性を明らかにした。この認識に基づき、中国は国内で調和のとれた社会を構築する政策を打ち出したのである。一方、外交面で出した調和のとれた世界の構築という提言は、決して国内政策をそのまま対外的に延長させたものではなく、世界全体の発展方向に対する中国の認識を具体的に示したものなのである。
哲学上の認識として以外にも、現実の政治的角度から見ても、「調和のとれた世界」という主張は、新中国の平和外交思想が新たな情勢の下で発展、昇華したものだとも言える。中華人民共和国成立後、経済的立ち遅れと文化的空白状態の中、国際社会で強権政治が主導する複雑な情勢に直面したことから、中国は「平和共存5原則」を打ち出すとともに、それを核心とする独立自主の平和外交路線を確立した。冷戦終結後は、改革・開放政策を実施したことで、経済は急速な発展を遂げ、国際的地位も大幅に向上した。そのため、西側の一部の国は「中国威脅論」を持ち出すようになった。そこで、中国は一貫した平和外交思想を踏まえて「平和的台頭」の理論を掲げたのである。つまり、1つの大国は貧しさから豊かさへ、弱者から強者に変わる過程において、世界と平和的に共存し、協調的な発展を遂げることができるだけでなく、世界の平和と繁栄のためにより多くの貢献ができる、というものだ。国際秩序が公正かつ合理的になりつつある状況の中、各国はいずれも平和的手段を通じて発展の余地を得ることができるのである。これが調和のとれた世界を提言した目的であり、調和のとれた世界を構築する基礎的条件でもある。
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