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メールマガジン 6月号  
村上春樹のなかの中国

 

日中戦争を知れば知るほど、日本という国家システムの怖さを感じる

──ほんとに重いことです。戦後の5、60年代には戦争と歴史に対する反省の小説が比較的多く出ましたが、その後、日本ではだんだん衰えていきました。村上はずっと文壇の常識の枠外で活動を続けていますが、これも1つの例でしょうか

村上の後期の創作はますます社会にコミットメントしてきており、もはや、初めのころにみなが認めた「軽いタッチのモダンな」ものではありません。村上にとって、戦争と中国は歴史の問題である一方、日本社会を理解するカギなのです。

──今日の日本社会も含めてですか

そうです。彼は、日中戦争について知れば知るほど、日本という国家システムの怖さを感じているのです。村上は、日本社会のある種の深層構造は少しも変わっていないと見ています。このような考え方や憂慮は『羊をめぐる冒険』や『ねじまき鳥クロニクル』の中にも続いています。

──そうですね。「先生」の体内に入った「羊」は、「先生」を通して邪悪な力を行使する。戦前は中国東北(偽満州国)で悪事を働き、戦後は日本で政治、経済、メディアを操る右翼の頭目となる。歴史の問題はまったく解決されずにこうして曖昧に過ぎてしまった

社会のロジックが変わっていないこと、それを彼は懸念しているのです。だから村上は『ねじまき鳥クロニクル』で『羊をめぐる冒険』のエピソードをもう1度語るのですが、紙幅は3倍増え、しかも中国東北とモンゴル国境における交戦を正面から論じた。これで村上の意図がより明らかになりました。つまり、現代日本の過去の暴力行為を探究することです。たとえ主人公が戦後生まれの日本人青年であっても、たとえ「僕」の生活が室内楽やスパゲティ、猫から成り立っているものであっても、歴史と正義は依然として最後に直面する問題なのです。この小説の中で、かつて「妻」は「僕」が自ら手を下していろいろなものを抹殺する必要はないのだと責め、問題を回避した結果を暗示する。小説は、このくだりの話から出発していると言ってもよく、同時に当時の日本の対中侵略と現代の平和憲法のもとで進む国家の暴力的システムが交錯して描かれる。こうした考え方は彼の旅行記『辺境・近境』(中国旅行記を含む)や『遠い太鼓』の中でも語られています。

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