──縁は非常にありますが、村上は実際に中国の小説を読んだことがあるのでしょうか。
あります。ある香港の学者が村上春樹にインタビューしたことがあり、同じ問題を聞いています(1992年11月、香港の学者、鄭樹森氏がプリンストンで行ったインタビューのこと。その全文は『我一向都比較反叛──専訪日本小説家村上春樹(どちらかと言うと僕はずっと反抗的だった──日本の小説家・村上春樹独占インタビュー)』と題して『聯合文学』誌の1993年1月号に掲載された)。村上の答えは、中国の古典的名作を脈絡なく断片的に読んだことがあるというものですが、魯迅を記憶していることをはっきりと述べています。彼がそれを読んだのは恐らく1960年代初めでしょう。当時、村上の家では河出書房の『世界文学全集』を毎月購読しており、村上はそれらを一冊一冊読み上げながら10代の時を過ごしたことになります。そして河出書房のこの『世界文学全集』の第47巻が「魯迅・茅盾選集」で、中には魯迅の『狂人日記』、『鋳剣』、『阿Q正伝』などの代表作があります。青春期の村上は『世界文学全集』を通して『阿Q正伝』などの魯迅の作品を読んだ可能性が大きいのです。
──村上が魯迅の作品に対する評価を論じたことはあるのでしょうか。
彼は『若い読者のための短編小説案内』という本を出しています。この本は、彼がアメリカのプリンストン大学で行っていた戦後日本文学講座に由来するものです。同書の中で村上は長谷川四郎の短編小説『阿久正の話』を紹介し、この小説は魯迅の『阿Q正伝』のもじりだと指摘しています。長谷川の作品を論じるために村上はわざわざ『阿Q正伝』を読み返し、魯迅が彼自身とはまったく異なる阿Qという人物をかなり適格に描写する中で、魯迅自身の苦痛や悲哀を表現しているのだと感じる。村上はこうした二重性が『阿Q正伝』に深みを与えたとしています。
──それはみな村上自身が言っていることですか?
そうです。『若い読者のための短編小説案内』の中にその言葉を見つけられます。そのほか、彼の短編小説『駄目になった王国』も『阿Q世正伝』に啓発されて書かれた可能性があります。以上のことで、村上は中国文学を直接論じていると言ってもいい。
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