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メールマガジン 6月号  
村上春樹のなかの中国

──文芸評論家・藤井省三教授に聞く──

自分でも不思議なのだが、なぜ小説に登場するのが韓国人でなく中国人なのか?僕はただ僕の記憶の影を書き込んでいるだけなのだ。僕にとって中国は、書こうとして懸命にイメージするものではなく、「中国」は僕の人生における重要な「記号」なのだ。

──村上春樹

1994年6月のある日、吉林省長春の動物園。色黒で無表情の中年観光客が辛抱強くパンダ館を捜し歩いている。この人物のリュックの中には青表紙の日本のパスポートがしまわれている。その生年月日の欄には「12 JAN 1949」と記され、その右下にはこの旅券の所持者がサインした「村上春樹」の4文字がある。大多数の日本人と違うのは、彼が『阿Q正伝』と『史記』を精読したことがあること、上海の「バンド」と「満州国」について描写したことがあることのほか、中華料理が大の苦手であることだ。その日の午後、結局、彼はパンダ捜しを諦めた。だが、「中国」は、彼の人生における「記号」として引き続き存在していくことだろう。

村上春樹の心の底に存在する「中国」を読み解くべく、『城市画報』誌が東京大学文学部教授で文芸評論家でもある藤井省三氏にインタビューした。その概要は次の通り。

今も記憶にある小説家は魯迅

──あなたは大学で中国文学を学び、その後、東京大学文学部で中国文学専門課程の教授を務められています。それが村上春樹という日本の作家を研究しようと思い立ったのはなぜでしょう?

十数年前、台北を学術訪問したとき、私は友人宅に荷物を置くとすぐに本屋へ駆けつけました。本屋に入るとすぐそこに村上春樹の専門コーナーが大々的に設けられており、翻訳本でぎっしり埋まっているのを見てびっくりしました。ほかの日本の作家はまったくこんな待遇は受けていなかったのに(笑)。そのとき、村上と東アジア、特に中国とは何らかの縁があるのだと感じました。こうした考えが私に興味を湧かせ、研究を続けることになったのです。

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