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思い遣りと人情の路線バス

 斎藤文男(元南京大学日本語学部専家)

中国の交通事情は年々発達し、全国の主要都市を時速300キロの高速鉄道で結ぶスピード時代になった。しかし、市内を移動する市民の足は何といっても路線バスが中心だ。南京市の中心街は一律2元。私は市内の移動は地下鉄よりもバスが好きだ。地下鉄は渋滞に巻き込まれることもなく早くて便利だが、乗客はオツにすましていてじつに味気ない。バスは乗客のほとんどが地域の人たちで、知り合いのような雰囲気と人情味や趣がある。

バスの中では、小学生や若い人から席を譲られることが多い。背中をトントンと叩かれ、後ろの席が空いたと教えられることもある。昨年夏、北京に行った時、天安門まであといくつの停留所かなあ、と席から立ち上がって車内の路線地図を見ようとした。若い女性の車掌さんは、すぐに私を指さして何事が叱責するように言った。北京人独特のr化の発音が多く、何を言っているのか聞き取れなかったが、「着いたら知らせるので、危ないから席に座っていなさい!」と忠告したようだった。年配者の安全を考慮しての思い遣りなのだろう。

昨年6月上旬の昼過ぎ。南京市内郊外から70歳ぐらいの白髪ぼさぼさの女性がバスに乗って来た。手には100cm×60cmほどの大きな平らな荷物を2つ抱えていた。中にはクチナシの花がたくさん入っていた。女性は乗る時、この花を一つつまんで運転席にポーンと放り投げた。運転手は黙っていた。女性は荷物を通路脇に置いて運転手近くの座席に座ると、運転席に向かってまた、クチナシの花を投げた。女性が座ったのを確認すると、運転手は女性に料金を請求することなく静かに走り出した。車内は女性が持ち込んだクチナシの花の甘い香りで一杯になった。

南京市内では初夏になると、交差点でドライバーにクチナシの花を売る女性たちが多くなる。赤信号で止まったドライバーに声をかけている。値段は1個2元。白髪の女性乗客は料金代わりに商品のクチナシの花を運転席に置いたのだ。座席に座ってから投げたのはサービスの心積もりだったのだろう。

このことを日本に戻ってから友人に話をすると、日本だったら必ず既定の料金を要求するだろう、と言った。運賃をクチナシの花の香りとしたバス運転手の粋な計らいと、女性乗客の味のあるサービス精神。私は中国人のゆとりあるファジー部分もなかなか捨てがたいと思った。クチナシの花言葉は「幸せを運ぶ」である。旅人には路線バスをお勧めする。

『中国123』日本語版2014年10月23日